知らない番号の電話には出ないようにしている人も多いでしょう。
しかし、東アフリカのサバンナに暮らすマサイ族は違います。
新たな研究で、マサイ族は間違い電話を利用することで、友人や仕事仲間をつくり、コミュニティの輪を広げていくことが明らかになりました。
「あっ、番号まちがえました。ところで友達にならない?」といったところでしょうか。
研究は、バージニア工科大学(Virginia Polytechnic Institute and State University)、コロラド大学ボルダー校 (University of Colorado Boulder)らにより、学術誌『Ecology and Society』に掲載されています。
間違い電話は「良いこと」の始まり?
マサイ族は、ケニアとタンザニアを中心に約200万人が暮らしています。
研究チームは、2018年から2019年にかけて、タンザニアで数百人のマサイ族にインタビューを行い、普段どのように携帯を使っているかを調べました。
その結果、マサイ族の中には、かける番号を間違えて知り合った人と社会的なつながりを形成している人が相当数いることが分かったのです。
「なぜ間違い電話を切らないのか」と調査員がたずねたところ、あるマサイは「良いことが起こるから(Good things happen )」と答えたと言います。
マサイ族の社会生活は家族間のつながりを中心にしています。
各グループが広いサバンナに散らばって生活しているため、そう簡単に他人と知り合うこともありません。
そこで間違い電話は、新たな出会いをつくるきっかけになるのです。

調査員によると、マサイ族は間違い電話をかける頻度が多いと言います。
原因の一つに「識字率の低さ」があり、電話機のボタンの数字や文字に慣れていないために間違った番号を押しやすいとのこと。
また、電波へのアクセスが悪いことも誤発信の要因となっています。
それから、携帯の充電が切れた際に、他人の電話を借りて手入力することも大きな要因の一つです。

しかしマサイ族は、間違って電話をかけた側も、かけられた側もすぐに電話を切ることはありません。
見知らぬ相手に興味を持ち、お互いの身分や情報を交換し合うのだそう。
約300人のマサイ族の男性を対象にした調査では、46%がこうした偶然の交友関係を持ったことがありました。
では、具体的にどんな「良いこと」があるのでしょうか?
具体的なメリットとは?
まず、マサイ族にとって社会的ネットワークは非常に重要です。
保険や医療扶助のような社会的セーフティネットがない場合、人とのつながり大きな助けになります。
たとえば、広いサバンナで放牧を行う牧畜民は、他の地域の天候や飼料の質、家畜の状態に関心を持っています。
各地域がつながっていれば、一方の地域が干ばつの時に、自分たちの家畜をもう一方の地域に預けておけるのです。
これは違法行為なのですが、実際に間違い電話でできた友人が家畜を自分のものだと偽ってくれたおかげで、干ばつを乗り越えられたマサイ族の方もいました。
あるいは、一夫多妻制のマサイ族では、間違い電話で息子のお嫁さんを見つけることもあるという。
調査では、間違い電話を通じて結婚したという男性が二人いました。

まだソーシャルメディアが浸透し切っていないマサイ族は、階級や職業、地理的条件によって、出会いが制限されます。
その中で、間違い電話は、友人やビジネスパートナーを見つける貴重なツールとなっているのです。
先進諸国では電子機器を使った犯罪や詐欺も多く、知らない番号の電話は人々の不安を煽ります。
一方でマサイ族には、知らない他人の電話に出る不安や恐怖心はなく、つねに新しい出会いを期待しながら電話に出ます。
電子機器のあるべき姿は、マサイ族の社会にこそあるのかもしれません。
参考文献
‘Wrong number? Let’s chat’ Maasai herders in East Africa use misdials to make connections
元論文
Mobile phones and wrong numbers: how Maasai agro-pastoralists form and use accidental social ties in East Africa
提供元・ナゾロジー
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