昭和から令和の現在まで、野球はスポーツ漫画界の中で常に上位を走る人気カテゴリー。この記事では、野球漫画の魅力や作品の選び方について解説し、名作から最新作品まで数ある野球漫画の中から、「野球好きの男がハマる30作品」をジャンル別に厳選し紹介する。
目次
「面白い野球漫画を読みたい!」という野球ファンや元野球少年の皆さんに贈る、「野球好きの男がハマる30作品」を紹介。スポ根、友情、ギャグや恋愛、野球理論から野球人の生き方まで、人生の魅力が詰まった野球漫画。「今こそ読みたい」作品を、この記事から探してみよう。
野球漫画はココが面白い!
地元の少年野球チームや学校のクラブ活動で野球をしていた経験がある方は多いだろう。本格的にプレーをしたことがなくても、父親や友人たちとのキャッチボール、あるいはバッティングセンターなどで楽しんだ経験は男なら一度はあるもの。
そんな元野球少年なら、大人になってからも「また野球をやりたいなぁ」と思って当然。しかし、「時間がない」「仲間が足りない」といった大人の事情で難しい……それなら、野球漫画だ!
漫画なら移動中の電車内や休日の昼下がりなどでも手軽に楽しめ、野球の醍醐味を仮想体験できる。また、野球を通しての友情や恋愛、人生を描いたものなど中身は多様で、しかも作品数が大変多い。今のあなたにぴったりの作品にきっと出会えるはず。
もちろん、「野球の経験はないけれど、試合観戦は大好きだ」という方にも野球漫画はおすすめだ。
だが、なぜ野球あるいは野球漫画がこれほど人を魅了してしまうのか。
理由のひとつは、9人のプレーヤーにはっきりとした役割分担があること。特に守備は明確で、作品内でのキャラクターづくりに大きく影響する。特に、ピッチャーは守備側でありながらバッターに挑むという攻撃的な側面をもち、主人公となるケースが多い。
守備と攻撃がはっきり分かれるというルールもユニークだ。一見静止した時間が長いようだが、バッテリーと打者は次の一球に備えて頭の中で配球等を高速で分析し、バックもそれに備えて守備位置を考え、ベンチは次の戦術を計算している。
そういったことに伴う心の動きや、選手たちの精神状態も見逃せない。実際の試合では彼らの考えや心理は見えてこないが、漫画ならばモノローグやセリフからそれがわかる。これは楽しい。
その他いろいろ野球漫画の魅力はあるのだが、それは作品紹介の中で紹介していきたい。
大人がハマれる野球漫画の選び方
もはや歴史ともいえる古典から、最近の流行を汲んだものまで、あまたの野球漫画がこの世に生まれ出た。数ある作品の中から、「野球好きの男がハマる」野球漫画の選び方を考えてみよう。
ジャンルで選ぶ
「野球漫画」にも様々なタイプがある。あなたの好みに合う野球漫画を見つけるには、まずはジャンルから選んでみるのもひとつの方法。代表的なものを挙げてみよう。
■熱血・努力のスポコン系
スポーツ漫画の王道ともいうべき努力・根性をベースとするスポコン系は、野球漫画の王道だ。特に昭和の時代には人気が高く、『巨人の星』『キャプテン』など古典的名作は知名度も高い。現在も一定数の根強いファンがいるジャンルだ。
■友情・恋愛の青春系
チームプレーが主体である野球を通じて生まれる友情や絆、あるいは野球部のマネージャーや幼馴染みとの恋愛要素を隠し味とした青春系の野球漫画は、スポコン系と並んで主要なジャンル。高校野球を舞台とした作品が多く、中には野球より恋愛要素のほうが強いものもある。
■野球理論・金のリアル系
一昔前の努力と根性の練習方法はすでに時代遅れとなり、スポーツ医学を基とした新しいトレーニング方法や練習スタイルが生まれている。近年はそうした現代野球の理論や考えを生かした作品も登場してきた。『おおきく振りかぶって』のように、青春系作品とリンクしているケースもある。
また、プロ野球を舞台とした作品には、一種の「職人」としての働き方や金の稼ぎ方を問う『グラゼニ』などがある。
■ギャグ系
比較的少数派だが、『ススメ!! パイレーツ』『歯ぎしり球団』などが知られている。ギャグというジャンルの宿命と
してアクが強い作品が多いものの、ツボにハマればたまらない。
絵のタッチで選ぶ
漫画にとって「絵」はとても重要な要素だ。
太い荒削りの線、繊細なタッチの線、バックの書き込みやキャラクターの描き方など、作者の個性が強烈に現れる。そこで、自分が読みやすい絵柄や気に入ったタッチの作品を探してみてはどうだろう。
素朴な絵柄が好みなら『タッチ』で有名なあだち充、独特の強烈な個性を求めるなら『REGGIE』のヒラマツ・ミノル、男の魅力を絵で味わうなら『あぶさん』の水島新司といった作品がある。単行本の表紙を見て、好みの絵か判断してみてはどうだろう?
また、絵柄が好きな漫画家がすでにいるなら、野球を扱った作品があるか調べてみるのもおすすめだ。
舞台設定(選手の年代、プロかアマかなど)で選ぶ
野球漫画の舞台は少年野球、高校野球、プロ野球などに分けられる。
少年野球では中学のクラブ活動やリトルリーグなどが舞台となり、主人公の成長物語が多い。高校野球の場合、多くは甲子園を目指す球児たちが描かれており、スポコン系や青春系の要素が楽しめる。元野球少年であった方なら球児たちの熱い思いや努力に感情移入しやすいし、野球経験がない方でも弟や甥っ子を応援する気分になるだろう。
プロ野球が舞台の場合、主人公が成人男性のためリアル系の作品が多い傾向にある。ほとんどの作品では登場する球団は架空なのだが、実在する球団や選手がモデルとなっていることに気づくとニヤリとさせられる。また、『あぶさん』では実在する球団や選手が普通に登場し、そこもまた魅力のひとつ。
完結しているかどうかで選ぶ
現在連載中の作品は、最新刊まで読んでしまうと続きは雑誌の発売を待たなくてはならない。「それもまた新たな楽しみ」という方ならよいのだが、「続きが気になってストレスがたまる」「一気読みしたい!」という場合は、すでに完結している野球漫画を選ぼう。
野球漫画の王道 熱血スポコンのおすすめ6選
目標に向かって努力する若者の姿は、いつの時代も人の心を打つ。昔の自分を思い出し懐かしく感じるもよし、今の自分を奮い立たせる材料にするもよし、スポコン系の野球漫画は明日への活力だ!
逆境ナイン
ある日、弱小を理由に「野球部の廃部」を言い渡された野球部キャプテンである主人公は、部の存続をかけて「甲子園大会での優勝」を校長と約束してしまう。その決意証明として、わずか10日後の練習試合で対戦相手(春の甲子園ベスト8)に勝つと誓い、チームメイトとともに猛特訓を開始するのだが……という第1回から波乱の幕開け。果たして彼らは甲子園で優勝、いや、それ以前に出場できるのか?
作者は熱血作品を描かせれば天下一品の島本和彦。なにしろ主人公の名前が不屈闘志、舞台となる高校名は全力学園というネーミングからして暑苦しいほど熱血だ。大げさなコマドリやセリフが多用され、スポコン系ではあるがギャグ要素も非常に強い。全6巻で完結。2005年には、玉山鉄二主演で実写化されている。
錻力のアーチスト
主人公・清作雄(きよさく・ゆう)はシニア時代から長打力を武器に活躍する実力派。しかし個人プレーが目立ち、チームからは浮いた存在であった。名門高校のスカウトの目にとまることを目標にしていたこともあり、「1打席でも多く俺にまわせ。アウトになったらシバく」などとチームメイトとの会話も殺伐としたもの。
そんな主人公が高校進学を機に自分が井の中の蛙であることに気づき、チームプレーの重要性を理解して成長していく姿が全14巻でていねいに描かれていく。
この作品の大きな魅力のひとつは、ルックスも個性も強烈なチームメイトやライバルの球児たちだ。それを意識してか、各巻の表紙は毎回一人(または二人)の人物をクローズアップしている。作者は不良高校生を描いた『シュガーレス』でも知られる細川雅巳。
ドカベン
野球漫画といえば、水島新司の作品は絶対に外せない。その代表ともいうべき作品が『ドカベン』だ。
舞台は神奈川県の明訓高校、主人公はガッチリした相撲取り体型の山田太郎。ポジションはキャッチャーで、打率7割を誇る強打者だ。チームメイトには「小さな巨人」と呼ばれるアンダースローの里中、秘打と華麗な守備が魅力の天才ピアニスト殿馬、悪球打ちの岩鬼などがおり、彼らの活躍で明訓は甲子園の常連校となる。
作品内のほとんどの場面が全国各地の強豪校との試合なのだが、ライバルたちもまた強烈で魅力的な人材がそろい、荒唐無稽な展開に胸が躍り頁をめくる手が止まらない。
さて、この作品は全31巻(秋田文庫)という長編なのだが、続編もある。まず『ドカベン』を含む水島の高校野球作品の集大成というべき『大甲子園』があり、さらにプロ野球編、スーパースターズ編、ドリームトーナメント編と展開。合計200巻を超えて完結という大長編シリーズとなった。
やったろうじゃん!!
舞台は創部たった3年で県大会ベスト8という好成績を修めた朝霧高校野球部。ただし、主人公は選手ではなく新しく赴任してきた監督・喜多條順という点がユニークだ。
喜多條は朝霧高校を甲子園へと導くため呼ばれたのだが、明るく楽しそうに練習する朝霧ナインを見て当初は固辞する。しかし甲子園を目指すなら「楽しい野球じゃなくなるぞ?」という喜多條の言葉に「のぞむところ!」と答えるナインを見て監督を引き受ける。その瞬間、気弱そうな笑顔を見せていた喜多條の表情が一変、厳しい男の顔つきとなる。
その後、選手に猛特訓を強いる喜多條に、朝霧ナインは反発しながらも成長していくというストーリー展開だ。喜多條は過去に暗い影があるのだが、それも物語に深みを与えている。
全19巻で完結。作者の原秀則は、ほかにも『ジャストミート』という野球漫画を描いている。
キャプテン
舞台は東京の下町、墨谷第二中学校。ある日、中学野球の名門校・青葉学院から転校してきた谷口タカオが主人公だ。元青葉という「肩書き」と偶然のホームランなどから墨谷二中ナインは谷口を過大評価してしまうが、実際のところ彼は二軍の補欠にすぎなかった。それでも谷口はナインの期待に応えるため一人猛特訓を重ねて実力をつけ、翌年のキャプテンに指名される、というところまでがプロローグ。
谷口の頑張る姿が見所で、ライバル・青葉との最終戦は手に汗握る展開で大団円を迎えるのだが、谷口の引退後も物語は終わらない。彼を崇拝する丸井がキャプテンとして二代目主人公を引き継ぎ、さらに三代目イガラシ、四代目近藤と主人公が代替わりしていくのだ。それぞれ才能も性格も異なるキャプテンたち、そして対戦相手となる個性豊かな中学校が千葉あきおの素朴な絵柄で描かれている。全26巻で完結。
なお、続編として高校進学後の谷口を描く『プレイボール』という作品もある。
巨人の星
これぞ昭和の野球漫画の金字塔!
幼い頃から父・一徹から厳しい訓練を課され、「おまえは巨人の星となるのだ!」と言い聞かされて育った星飛雄馬の成長物語。大リーグボール養成ギブスという筋肉増強アイテムを装着し、家の壁に開けた穴を通じて庭の木を相手に一人キャッチボールという遊びだけで育った飛雄馬は、豪速球と完璧なコントロールを身につける。甲子園で準優勝、巨人軍にテスト入団してプロの世界へ!
しかし、小柄な飛雄馬には投手として致命的な欠点があった。それを克服するため血の滲む努力の末に魔球・大リーグボールを編み出すものの、その度にライバルたちに打ち崩されてしまう。
絶望的な敗北を喫しても、そこから血の滲む努力の末に這い上がってくるという飛雄馬の復活劇が大きな見所だ。立ち塞がるライバルたちには、華麗なる花形満や家族思いの左門豊作、さらには親友・伴宙太の姿まである。
原作は梶原一騎、作画は川﨑のぼる。内容の激しさと劇画タッチがよくマッチしている。全11巻(講談社漫画文庫)で完結。『新巨人の星』という続編もある。
友情や恋愛を描いた青春野球漫画のおすすめ5選
試合や練習を通してのチームプレーで生まれる連帯感や友情、マネージャーや幼馴染みとの淡い恋心、青春時代のひたむきな姿勢や甘酸っぱい気持ちが鮮やかによみがえる。青春野球漫画を読んで心の若さを取り戻そう!
おおきく振りかぶって
硬式野球部が創設されたばかりの県立西浦高校が舞台。部員はたった10名(全員一年生かつ野球未経験者を含む)だが、高度な野球技術と専門知識、指導力をもつ若い女性監督(西浦高校OB、元軟式野球部マネージャー)のもと甲子園を目指すという物語。
特筆すべきは主人公のキャラクター。設定が実にユニークだ。ピッチャーである三橋廉は極端に気弱で、普段はイジイジ・オドオドした態度をとる。キャッチャー阿部隆也との意思疎通もままならない。が、投げることが大好きでマウンドへの執着心はすさまじい。彼らが、練習や試合、放課後の勉強会などを通じて徐々に互いに歩みよる。
ナインの間で培われていく友情も見所だが、メンタルトレーニングや成長期である高校生の栄養管理、各自の性格や家庭環境なども細かくていねいに描かれている点も目新しい。これは作者であるひぐちアサが女性であることも少なからず影響しているのだろう。素朴で柔らかいタッチの絵柄だが、内容はなかなかに骨太だ。『アフタヌーン』で連載中、最新刊34巻(アフタヌーンKC/2021年6月現在)
MIX
超有名野球漫画『タッチ』の作者あだち充の手による青春野球漫画。作者が同じというだけではなく、舞台も同じ明青学園野球部で、主人公は同じ年の同じ日に生まれた兄弟だ(立花投馬・走一郎)。
といっても両親の再婚による義理の兄弟なので血縁関係はないが、どことなく『タッチ』の上杉兄弟を連想させる。走一郎の実妹は、家庭内では朝倉南と同じようなポジションであるし、新体操部の美少女も登場する。『タッチ』の続編ではないが果てしなく世界観が似ており、『タッチ』ファンには必読の一作。
さて、立花兄弟が通う明青学園は、かつて上杉達也の活躍で甲子園優勝を果たしたが、その後は鳴かず飛ばず。すっかり低迷しているところに、中学野球時代から実力をつけてきた立花兄弟のバッテリーが進学。再び甲子園を目指す!
あだち充ワールドの独特のゆったりしたテンポとほのぼのギャグ、細やかなキャラクター描写も見所だ。『ゲッサン』で大人気連載中、最新刊は17巻(ゲッサン少年サンデーコミックス/2021年6月現在)。
ROOKIES
主人公は二子玉川学園に赴任してきた正義感あふれる熱血教師、川藤幸一。川藤は生徒への暴力という不祥事で前の高校をクビになっており、二子玉川学園の野球部も試合中の暴力事件により出場停止処分中。すっかり不良の溜まり場と化してしまった野球部だが、川藤は野球部の再建を目指し、顧問になることを申し出る。
不良部員たちは川藤に激しく反発しながらも、恥ずかしげもなく「夢をもち、夢をつらぬくことの大切さ」を訴える彼に徐々に心を開き、ついには甲子園を目指し始める。
2008年に実写化され注目を浴びた作品なので、「テレビドラマは見た」という方もいるだろう。不良を描かせれば天下一品、森田まさのりの味のある絵柄を味わいつつ、原作である漫画も通読してみよう。全14巻で完結(集英社文庫)。
ダイヤのA
主人公の沢村栄純は熱い心をもつ野球少年。廃校が決まっている中学の名を残そうと意気込んで試合に出場するも、己の暴投によって敗戦を喫してしまう。地元の高校に進学するつもりの沢村のもとに東京の名門・青道高校からスカウトが訪れたことがきっかけで、彼は新天地で自分の力を試すことを決心する。
とはいえ沢村は当初二軍スタートで、背番号もない。独特のフォームとクセ玉の持ち主であるうえ、青道高校にはすでにエース級の投手が何人もいるのだから何度も挫折を味わうのは当然だ。
しかし、持ち前の明るく強い性格で努力を重ね、チームメイトからの信頼を得て切磋琢磨する姿には思わず胸が熱くなる。チーム内外のキャラクターもていねいに描かれ、青道ナインだけではなく相手チームをも応援したくなってしまうほど。作者の寺島裕二のタッチも力強く爽やかだ。
全47巻で完結(講談社コミックス)。
最強! 都立あおい坂高校野球部
「オレが鈴ねぇを甲子園に連れてってやるよ」という小学生時代の約束を果たすため、強豪校からの誘いを断って都立あおい坂高校へ進学する北大路輝太郞。あおい坂高校の野球部は「鈴ねえ」こと管原鈴緒が監督を務めており、彼女はかつて少年野球チーム荒川ボマーズで北大路たちの指導にあたっていたのだ。
管原は「師匠」とも呼ばれ、指導者としても監督としても優秀なのだが、あおい坂高校野球部は部員が足りず試合すらできない状況だった。そこにアンダースローから繰り出すシンカーを決め球にもつ北大路、パワーヒッター小林虎鉄ら、かつての教え子が加入しようやくナインがそろう。
ギリギリの人数で練習、試合をこなしていくという大きなハンディを背負ったあおい坂高校が、いかにして快進撃を実現させたか? そこが大きな見所だ。
全26巻で完結(少年サンデーコミックス)。
野球は考えるスポーツ 理論や戦術が面白い野球漫画4選
現代はデータを元に緻密な計算をし、それを作戦や戦術に生かすID野球が主流だ。とはいえ、昔ながらの隠し球や偽投といったトリッキーな技にも心惹かれる。論理的な野球漫画で頭を刺激すれば、日常に疲れた脳もリフレッシュ!
ラストイニング 私立彩珠学院高校野球部の逆襲
かつて甲子園出場も果たした彩珠学院高校の野球部は、経営悪化のあおりを受け廃部寸前だ。しかし、野球部の存続をかけて「来年夏までに甲子園に出場する」ことを校長が理事長に掛け合う。そのために呼ばれたのが、13年前の野球部キャプテン鳩ヶ谷圭輔!
ここまでは野球漫画にありがちな設定だが、見所は鳩ヶ谷新監督のキャラクター設定だ。長髪・無精髭にくわえ煙草と、まるでチンピラのような風貌の彼は、見た目通り詐欺まがいのセールスマン。インチキで培った人やものの見方、心理術から野球を分析し、独特の練習方法を取り入れ、盲点をつく戦術で鳩ヶ谷ナインを導いてゆく。
根性・努力のスポコン要素はあまりなく、天才投手は登場しないし、魔球や秘打もなし。ごく普通の高校生が普通の練習を積み重ねて試合に勝つというリアリティが魅力だ。原作は神尾龍、作画は中原裕。全44巻で完結(ビッグコミックス)。
ONE OUTS
天才打者・児島弘道が沖縄で自主トレ中、屈強なアメリカ兵を相手に一打席勝負の野球賭博で勝ち続ける渡久地東亜と出会うところから物語が始まる。球速100~120キロ程度しか出ない渡久地との勝負に負けた彼は、優勝するための「何か」を渡久地の中に見出し、弱小リカオンズに勧誘する。
野球人というよりは勝負師である渡久地は、完全出来高制で報酬も罰金も桁違いのワンナウツ契約をオーナーと結ぶ。これは契約という名の賭博であり、渡久地が登板するごとに読者も作品内のオーナーも、アウトひとつで莫大な金額が動く展開に手に汗を握る。一人渡久地だけが涼しい顔で勝負に勝ち続けていくのが痛快であり、その心理戦や情報戦、ルールの盲点をついた戦術が大きな見所だ。
作者は甲斐谷忍、全20巻で完結(ヤングジャンプコミックス)。
GRAND SLAM
子供の頃から野球に憧れていたが、経験はまったくないという世界一心が主人公。彼の実家は日本拳法の道場で、世界も10年間修練を積んでいるのだが、人を殴ることができないため拳法で勝利することはなかった。
神奈川県立美咲高等学校で野球部に入部を希望する世界だが、当初は未経験のため断られてしまう。めげずに一所懸命練習に励み、入部の条件として提示された課題をクリアして念願の野球部に入部。チームメイトである蔵座直哉のアドバイスを受けながら、ついに練習試合とはいえピッチャーとしてマウンドに立つまでに至る。球速こそ120キロそこそこだが、世界は脅威のコントロールを身につけ、ブルペンではなんと81分割されたストライクゾーンに投げ分けられるほどに成長!
なぜ世界が短期間で精緻な野球技術を身につけられたのか、拳法の話や身体理論といったスポーツ科学の側面からもアプローチしている。作者は河野慶、全14巻で完結(ヤングジャンプコミックス)。
バトルスタディーズ
主人公の狩野笑太郎は中学時代、日本代表チームの4番として活躍。高校は憧れの名門DL学園に、特待生の最高ランク「特待生S」として進学したの。だが、全寮制のうえ厳しい上下関係や理不尽な扱いに脱落者が絶えない。
しかし、笑太郎は「野球で食っていく」ことを目標にしてきたDL学園オタクであり、実母の「苦しいことは全部笑いに変えなさい」という超ポジティブシンキングにも支えられ、仲間たちとともにレギュラーを目指し、甲子園優勝を決意する。
作者のなきぼくろ(ナキボクロ)は、なんと名門PL学園高等学校硬式野球部のOB! 2003年には夏の甲子園大会にレギュラーとして出場している。そんな作者が実体験を生かし、甲子園を目指す高校球児を描くのだから必読の一品だ。
最新刊26巻、『モーニング』で好評連載中(2021年6月現在)。
主人公がすごすぎる野球漫画7選
漫画の主人公は誰もが特徴的なものだが、ここで紹介する作品の主人公たちは、方向性はそれぞれ違うもののひときわ強い輝きを放つ。読了後にスカッとするか感動するか、はたまた呆れかえるか。読んでみてのお楽しみ!
BUNGO
石浜文吾はひとつのことに興味をもつと周囲を省みず熱中してしまう、一歩間違えると「変なヤツ」に見える少年。子供の頃は金魚にはまり外にも出ず一日水槽を眺めて過ごす。心配した姉と父がグローブとボールを与えた結果、今度は嵐の中でも壁を相手に一人ピッチング練習をするようになった。
そんなある日、文吾はU-12代表にも選ばれた実力者・野田幸雄と一打席勝負を挑むも、あっさりホームランを打たれるという結果に。内に闘争心を秘めた文吾は、幸雄の所属する名門シニアチームに入団し、最初は打者に勝つことだけに固執してしまうものの、徐々に野球の本質であるチームプレーを楽しむまでに成長する。
この作品の見所は、ひたむきで実直な文吾が、努力と研究によって実力を高めていく描写だ。才能あふれる少年たちが集まるリトルシニアの世界も、高校野球とは違って新鮮だ。最新刊26巻、『ヤングジャンプ』で好評連載中(2021年6月現在)。
MAJOR
野球一筋で真っ直ぐな熱血漢、茂野吾郎の幼少期から学生時代、プロ野球を経て、ついにはメジャーリーグに挑戦するまでの人生を描く半生記。プロ野球選手であった父や母の死、肩の故障といった悲劇や困難に遭遇しても、それに立ち向かっていく吾郎の姿には胸が熱くなる。
野球への思いが強いあまり、自分勝手な振る舞いもたびたび見られるが、彼のひたむきな情熱に周囲の者も心を動かされ、監督やチームメイトが心をひとつにし、目標に立ち向かうようになるのだ。恋愛要素や結婚の話なども織り込まれ、物語にリアリティを与えている。
全78巻で完結(少年サンデーコミックス)。茂野吾郎の息子(大吾)を主人公とする続編『MAJOR2nd』も『少年サンデー』で連載中(2021年6月現在)。
REGGIE
「助っ人」と呼ばれてきた外国人選手を主人公に据えた珍しい作品。大リーグで4番を務めてきたスラッガー、レジー・フォスターが主人公。メジャー復帰を目指し、クセのある監督や一癖も二癖もあるチームメイト、ベースボールとは異なる「野球」、不慣れな日本語に悩まされながらも、メジャー復帰を目指して悪戦苦闘するレジーの日本でのワンシーズンを描く。
この作品の面白さはなんといっても個性豊かなキャラクターたち。特に、レジーが所属する東京ジェントルメンの名将、合理主義者の平山達司監督と、ジェントルメンにはほど遠いピッチャー、溝口貴弘は型破りだ。レジーとの掛け合いの場面では、思わず大爆笑してしまうことも。
ヒラマツ・ミノルの骨太で独特のタッチは作品の世界観とよくマッチしており、また原作者GUY JEANSの名前にも笑わせられる。全12巻で完結(モーニングKC)。
おれはキャプテン
スポーツ専門のフリージャーナリストになりたい、という霧隠主将(カズマサ)が主人公。成績優秀で合理的、中学で野球部に所属はしているのも将来の夢のためにすぎないと部活動には不熱心だ。万年補欠でチーム内での影も薄いカズマサが、なんと監督からキャプテンを任命されてしまう。本来は部員投票で選ばれるはずのキャプテンであるので他の部員たちの反発は当然であり、ノックすらできないカズマサも悩む。
しかし、カズマサは「打って打って打ち勝つ」をモットーにチームづくりを始める。最初は疑問を抱いてしまう部員たちだが、彼の本気度を目の当たりにして次第にカズマサをキャプテンとして認めていく。「環境は人を変える」という監督の教育理念から生まれた「キャプテンにふさわしくないキャプテン」の、独特の思考法や偏った練習がついには強豪校を作り出すに至る過程が見所だ。
カズマサは名門高校から誘われるほどの選手となるが、体育会気質を嫌って新設高校に進学。そこで今度は甲子園を目指すのだ。全35巻で完結(講談社コミックス)。続編に大学野球を描いた『ロクダイ』がある。
風光る
野球選手としての体格にまったく恵まれていない小柄な高校生、野中ゆたか。多摩川高校野球部に所属しているが、もちろん補欠だ。それでも野球が大好きで、プロ選手のフォームをそっくりにマネできるという特技をもつ。このモノマネシーン、野球ファンにはなかなかの見所で、絵のうまさが光る。
そこに赴任してきた新監督・君島は、野中のモノマネを見て彼の才能を見抜き、ピッチャー・4番として大抜擢する。選手の形態模写がうまいということは、観察眼が鋭いうえ練習を繰り返してきたことにほかならない。実際、強豪・千束高校との練習試合では野中の働きとモノマネで接戦へと持ち込めた。多摩川高校ナインは野中と君島のもと自信とやる気を復活させ、ついには甲子園を目指すまでになる。
原作は七三太朗、作画は川三番地。やさしい絵柄が作品のあたたかさによく似合う。全44巻で完結(講談社コミックス)。
Dreams
野球センスと身体能力に優れ、人を引きつける統率力も抜群の久里武志だが、残念なことに素行不良で中学野球では有名な問題児。名門校に誘われるはずもなく、中学野球の落ちこぼれが集まってくる夢の島高校ですら不合格になりそうなところを、なんとか拾われるという始末。そんな久里が、チームメイトともに甲子園を目指すという物語だ。
初期は野球理論などリアリティある内容だったのだが、連載が進むにつれて魔球が登場するなど破天荒な展開が目立つようになる。最大の見所は最終回。ネットでも大いに話題となったのだが、それは読んでみてのお楽しみに。原作は七三太朗、作画は川三番地、全71巻で完結(講談社コミックス)。
あぶさん
大酒飲みの長距離スラッガー、20代後半でプロ入り後は基本的に代打専門ながらもホームラン王を獲得するという、いろいろな意味で規格外の景浦安武(通称あぶさん)が主人公。なんといっても62歳まで選手として現役生活を送ったのだから驚きだ。
ホームランを打ってダイヤモンドを一周する間にヘルメットに吐いたことで飲酒がバレ、優勝しながらも甲子園出場を取り消された高校時代など、若い頃は相当なヤンチャだった。が、ベテラン選手となってからは持ち前の厳しさとやさしさで若手に慕われ、首脳陣にも愛され頼りにされていた。
そんな景浦は南海ホークスに入団し、福岡ダイエー、福岡ソフトバンクと名称は変わってもホークス一筋のプロ人生。実在の球団が舞台なので、野村克也氏や王貞治氏をはじめプロ野球選手が作品内で当たり前のように登場しているのも魅力のひとつ。また、常連店である《大虎》を中心としたヒューマンドラマも見逃せない。作者は水島新司。全107巻で完結(ビッグコミックス)。
ギャグ漫画で思い切り笑おう おすすめ3選
コメディ風味の野球漫画は少なくないが、ギャグ漫画となるとそれほど多くはない。それだけに、ここで紹介する作品は希少価値が高い。野球好きだからこそ味わえるギャグを楽しもう。
歯ぎしり球団
作者は超シュールな作風の吉田戦車、それだけでもう説明は不要だろう。
というわけにもいかないので少し解説しよう。まず主人公の後藤手術だが、彼は草野球チーム「歯ぎしり球団」のピッチャー。彼は小学校から高校までピッチャーをしているのだが、ストライクが入ったことがない。
なぜピッチャーを続けられるかといえば、医者である実父の権力と金のお陰。デッドボールという魔球がバッターに当たると文字通り死んでしまう。キャラクター陣もワケがわからない。監督は常に鉄仮面を被らされ、普段は地下室に監禁されているし、盗塁を趣味と公言する盗足ぬすみ子は本当にベースを持ち帰ってしまう。何はともあれご一読を! 全1巻で完結(太田出版)。
すすめ!! パイレーツ
千葉県人による千葉県人のための千葉県出身選手のみで構成されたプロ野球チーム、千葉パイレーツを舞台とする伝説の爆笑ギャグ野球漫画だ。万年最下位で「セ・リーグのお荷物」とされるパイレーツは架空の球団だが、作品内には実在する球団や選手が登場し、パロディ満載で思わずニヤリとさせられる。
浪費癖のあるオーナー九十九里悟作をはじめ、超ちゃらんぽらんな性格のキャッチャー兼コーチの犬井犬太郎など、個性豊かでアクとクセが強すぎる多彩で強烈なキャラクターが見所だ。顔も人格もかなりまともに見える主役級の富士一平ですら、こと野球となると常識を忘れてしまう。
作者は『ストップ!! ひばりくん』でも知られる江口寿史で、江口ならではのシュールなギャグも炸裂する、抱腹絶倒の一作。全4巻で完結(小学館クリエイティブ)。
メイプル戦記
女子選手だけで構成されたプロ野球球団メイプルスが、男ばかりのセントラルリーグに7番目のチームとして参戦! 宝塚歌劇団とプロ野球が大好きというスイート製菓会長、立花小雪が新しく設立した球団で、監督はかつてド田舎にある私立豆の木高校の弱小野球部を甲子園で準優勝させたという広岡真理子だ(同じ作者による『甲子園の空に笑え!』という作品で描かれている。合わせて読むと楽しさ倍増だ)。
肝心の選手だが、層は薄いものの、男顔負けの実力派ぞろい。球速160キロを超えるストレートが武器の元高校球児(心は乙女なので入団を許された)やプロ野球選手を夫にもつスラッガー、外野フェンスからホームまでレーザービーム返球ができる外国人スラッガーなど、個性的なキャラクターが楽しい。相手チームも実際のプロ野球球団がモデルとなっており、野球ファンならついニヤリとしてしまう。
作者はゆる~いギャグとテンポのよいセリフが持ち味の川原泉。全1巻で完結(白泉社文庫)。
ちょっと変わったおすすめ野球漫画5選
ここで紹介する作品は、今までのカテゴリーには入れづらいものばかり。斬新な切り口で野球というテーマに挑んだ作品が多く、新たな野球観に出会えるだろう。中にはSFじみた異次元ワールドもあり!
グラゼニ
「グラウンドには銭が埋まっている」がモットーの凡田夏之介が主人公。神宮スパイダースに入団してプロ8年目、年俸1800万円の中継ぎ投手という設定だ。特技は全球団の一軍選手の年俸を暗記していること。
年齢・体力によって限られている短い現役生活の中で、いかに年俸をアップするか? 日々の練習や試合の中でも常にカネについて考え行動する凡田の、野球職人としての生き方が見所だ。そのためには先発転向を狙ったり、ポスティングシステムで大リーグへ挑戦したりすることも辞さない。また、選手たちが語る引退後の生活や試合の裏話、プロ野球界における県人会の話など、リアリティあふれるサイドストーリーもプロ野球ファンにはたまらない。
全17巻で完結(モーニングKC)しているが、凡田のその後を描いた続編『グラゼニ~東京ドーム編』『グラゼニ~パ・リーグ編』がある。原作は森高夕次、作画は足立金太郎(アダチケイジ)。さらに、高校で甲子園を目指す凡田の青春時代がテーマのスピンオフ作品『グラゼニ~夏之介の青春』が『イブニング』で連載中(2021年6月現在/作画は太秦洋介)。
砂の栄冠
創立100周年を迎えた記念の年、樫野高校は甲子園出場がかかった決勝戦で惜敗してしまう。それまで予算を供出してきたOBたちはすっかり意気消沈し、無情にも後援を打ち切ってしまうのだ。野球部ナインもやる気を失い、キャプテン七島裕之もチームの雰囲気に流されていた。そんなとき、30年来の樫野高校野球部ファンであるという近所の老人トクさんから、甲子園への資金にしてほしいと1000万円を渡される。さぁ、七島はどうするか?
舞台は高校野球で、甲子園を目指すという展開ではあるが、他の野球漫画とは雰囲気がかなり違う異色作。裏テーマはズバリ金だろうか。作品内では、甲子園大会を学生スポーツ大会ではなく、ある種の興業としても捉えられるという視点で描かれている。作者は『ドラゴン桜』で知られる三田紀房、全25巻で完結(ヤンマガKC)。
いにんぐ!
女子野球同好会トリオによる、ゆるゆるフワフワのコメディ。女子野球部部長のさくら、まったく野球に興味がないのになぜか部員のゆま、そして情熱あふれる新入生かなえが織り成す日常を描く。疲れ果て、何も考えたくないときでもサラッと読めてしまう魅力がある。野球のモノマネシーンが見所といえば見所だ。
作者は茶麻、全2巻で完結(角川コミックエース)。
ドラベース ドラえもん超野球外伝
あの児童漫画の名作『ドラえもん』と同じ世界を舞台に、ネコ型ロボットたちが野球をするという作品。
主人公はクロえもんという、ドラえもんそっくりなネコ型ロボット。江戸川ドラーズという弱小の草野球チームに所属しており、5番サードを務めるチームの中心メンバーだ。あるときライバルのシロえもん(これまたドラえもんそっくり)と再会したことで一念発起、強いチームづくりを決心することになる。
『ドラえもん』の世界観を野球で味わえるというところがポイント。たまには童心にかえってこんな作品を味わうのも楽しい。
藤子プロが原案として協力、作画はむぎわらしんたろう。全23巻で完結(てんとう虫コミックス)。
アストロ球団
最後に極めつけの変わりダネ、1970年代に雑誌連載されていた『アストロ球団』を紹介しよう。
まず、アストロ球団のナインは体のどこかにボール型のアザがあり、みな1954年9月9日生まれという設定がぶっ飛んでいる。彼らは兄弟でも親戚でもないが、球一や球三郎など全員名前に「球」が入っており、その超人的な身体能力をフルに使って、J・シュウロという謎の人物とともに打倒巨人軍、さらには打倒大リーグを目指す。
超人たちの試合はゲームというより、まさに死闘。実際、試合中に何人も重傷を負ったり、死亡したりするなど悲壮な様相が展開されるのだが、まさにそこが見所なのだ。アストロ球団の中心メンバー、ピッチャーである宇野球一が編み出すスカイラブ投法やジャコビニ流星打法も必見だ。原作は遠崎史朗、作画は中島德博。全5巻(太田出版)で完結。
明治初期にアメリカから伝わった野球は、その精神性や頭脳派スポーツという特徴がマッチしたのか、古くから日本人に愛され、現在も人気が高い。日本が世界に誇る文化である漫画の世界でも多種多様な作品が生まれ、今も昔も野球漫画は一大ジャンルとなっている。
この記事では、あまたの野球漫画の中から厳選した30作品をカテゴリー別に紹介した。気に入った作品、あるいは興味がわいた作品があれば、自宅でゆっくりと楽しむのも一興だ。
提供元・男の隠れ家デジタル
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