1948年、米北西部のアイダホ州当局は2つの問題を抱えていました。
厄介者の「ビーバー」と、第二次世界大戦で大量に余った「パラシュート」です。
この問題を一挙に解決するべく、当局は過去に例のない作戦に打って出ました。
「パラシュートを使ってビーバーを強制移住させる」というものです。
しかし、降下訓練ができないビーバーをパラシュートで落とすのは容易ではありません。
一体、どんな手を使って落としたのでしょう?
また、ビーバーは無事に引っ越しできたのでしょうか?
史上初の「ビーバー降下作戦」を決行するまで
戦後まもなく、アイダホ州の都市マッコールのペイエット湖近くに人々が移り住むようになりました。
ところが、その湖周辺は数百年前からビーバーたちの生活拠点となっていたのです。
ビーバーたちは、アイダホ州の魚類・野生生物局(Idaho Fish and Game Department)に「厄介者」と認定され、314キロ離れたチェンバレン盆地に強制移住させられることになりました。
ビーバーにとっては迷惑な話です。
ところが、ビーバーの移住はそう簡単ではありませんでした。
当初のやり方は、野生下でビーバーに近づいて捕獲し、ラバや馬に乗せて運ぶというもの。
その後、トラックで新しい居住区の近くまで輸送され、再び馬やラバに乗せて運びました。
しかしその間、ビーバーの体調面を考えて、常に冷やしたり、水を与えなければなりません。年老いたビーバーは非常に不機嫌になり、若いビーバーも食料を拒絶することが多くなったと言います。
アイダホ州魚類・野生生物局のエルモ・W・ヘター氏(Elmo W. Heter)は、1950年に野生動物に関する科学雑誌『The Journal of Wildlife Management』に以下のような報告をしています。
「馬やラバもビーバーを積むと苦しそうで、不機嫌になっていた。
こうした問題が起きると、さらなる対処が必要になり、ビーバーが命を落とすケースも増えてしまう」
そこでヘター氏と当局が考えた作戦は、戦争で余ったパラシュートを使ってビーバーを飛行機から放り出すことでした。
この作戦を実行に移す前に、解決するべき点がいくつかありました。
まず、パラシュートが空中で開くよう、ビーバーを重くなければなりません。これはビーバーを入れる箱を重くすれば解決できます。
次の問題は、降下する間、箱の中にビーバーを安全に閉じ込めておきつつ、地面に着地したときに簡単に外に出すことでした。
最初に出た案は、ビーバーのエサで箱を作ることでした。
箱を柳で編むことで、ビーバーがそれをかじり外に出られるというのです。
「しかしこの方法は、ビーバーが箱を噛み砕くのが早すぎて、飛行機の中で脱出してしまったり、降下中に箱から落ちてしまう恐れがあるために中止された」とヘター氏は述べています。
当局は、それよりはるかに良い方法を思いつきました。
箱に何本かのロープを張り、ビーバーが地面に着いてロープの張力がなくなると箱が開くようにしたのです。
重りを使った代替えテストでこの方法が効果的だとわかると、当局は「ジェロニモ」と名付けられたオスのビーバーで実証テストを行いました。
本番での失敗がないように、ジェロニモは何度も何度も飛行機からパラシュートで落とされたそう。
それでもテストは無事に成功。
ジェロニモはそのご褒美として、3匹のメスと一緒に最初の移住者となりました。
なんと幸運なことに、その時の様子をおさめたオリジナル映像が2015年に発見されています。
この作戦は見事に成功し、1948年の秋までに76匹のビーバーがパラシュートで降下させられました。
記録によると、1匹のビーバーが犠牲になったと報告されています。
その1匹は降下中にロープが切れて、箱の扉が開いてしまい、空中で箱の上に登っていったとのこと。
ヘター氏は「ビーバーがその場にとどまっていたら、無事に着地できただろう。しかしどういうわけか、地面から20メートルの高さまで降りてきた時、ピーターは箱から飛び降りて命を落としてしまった」と書いています。
この1匹を除けば犠牲者は出ておらず、1949年末にはすべてのビーバーの移住を終えました。
その後、ビーバーたちは、新たな土地でダムを作り、家を建て、食料を蓄え、順調にコロニーを大きくしていったようです。
参考文献
The Time Idaho Dealt With Its Surplus Of Beavers By Parachuting Them Into Its Backcountry
提供元・ナゾロジー
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