2011年に発生した福島第一原発事故。放射能漏れから周辺地域は封鎖、のべ15万人以上が避難しました。

あれから10年を経た今も、多くの住民が戻っておらず、町は荒廃したままとなっています。

人のいなくなった福島の町は、山から降りた野生のイノシシが引き継ぎました。

そして今回、福島大学の研究チームが、イノシシの遺伝子を調べたところ、避難時に放置された家畜のブタと異種交配していることが判明したのです。

研究は、6月30日付けで科学誌『Proceedings of the Royal Society B』に掲載されています。

目次

  1. イノシシが家畜ブタのDNAを取り込んでいた

イノシシが家畜ブタのDNAを取り込んでいた

研究チームによると、イノシシ338頭の遺伝子配列を調べた結果、少なくとも18頭のイノシシに家畜ブタの遺伝子が見つかったとのこと。

人がいなくなって山から降りてきたイノシシは、農場から脱走したブタと交配し、ハイブリッド種を生んでいたのです。

福島の立ち入り禁止区域では現在、数百頭を超えるイノシシが徘徊しており、町には安全基準の約300倍の放射性物質セシウム137が検出されています。

しかし、イノシシやハイブリッド種の遺伝子に、放射線による突然変異などの悪影響は見られなかったという。

「それどころか、むしろ繁栄しており、町はイノシシたちが乗っ取っている」と研究主任のドノヴァン・アンダーソン氏は指摘。

「家畜のブタは野生下で生き延びられないが、たくましいイノシシは、完全に廃れた町でも繁殖できたのでしょう」と続けます。

その過程で、家畜ブタの遺伝子も取り込んだようです。

人の消えた福島の町でイノシシが繁栄。家畜ブタと「ハイブリッド種」を作っていた
(画像=立ち入り禁止区域を歩くハイブリッド種(右側) / Credit: HIROKO ISHINIWA(bbc)-Fukushima disaster: Tracking the wild boar ‘takeover'(2021)、『ナゾロジー』より引用)

ところが、ブタの遺伝子は時間の経過とともに薄まっていくことが分かりました。

研究員は「ブタの侵入的遺伝子は、ハイブリッド種が野生のイノシシと交配することで希釈され、徐々に消えていき、また元の状態に戻っていく」と説明しています。

人の消えた福島の町でイノシシが繁栄。家畜ブタと「ハイブリッド種」を作っていた
(画像=福島の町をねり歩くイノシシ / Credit: D ANDERSON(bbc)-Fukushima disaster: Tracking the wild boar ‘takeover'(2021)、『ナゾロジー』より引用)

しかし、イノシシの天下もそう長くは続かないかもしれません。

2018年から、避難していた住民が一部地域に戻り始め、町の復興が徐々に進んでいるのです。

アンダーソン氏は「野生のイノシシにとって唯一の天敵は人間であり、人間が町に戻ってきたとき、彼らがどう振る舞うのか非常に気になるところです」と話しています。

住民が戻り、町が息を吹き返せば、イノシシも山に戻るほかないでしょう。

その一方で、いくつかの地域はまだ厳重に封鎖されており、立ち入り禁止が解除される見込みはないとのこと。

もしかしたらそれらの地域は、チェルノブイリと同じように、何十年とつづく野生生物のすみかとなるかもしれません。


参考文献

Fukushima disaster: Tracking the wild boar ‘takeover’

FUKUSHIMA’S BOAR-PIG HYBRIDS REVEAL HOW NATURE CAN HEAL AFTER HUMANS

元論文

Introgression dynamics from invasive pigs into wild boar following the March 2011 natural and anthropogenic disasters at Fukushima


提供元・ナゾロジー

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