スマホやパソコンが市民権を得た昨今、メモや文書作成はキーボードでの手打ちが主流です。教育現場でも、タブレットを取り入れる学校が増えつつあります。
しかし、ノルウェー科学技術大学(略称: NTNU)の研究により、手書きの方が子どもの学習能力や記憶力を向上させることが判明しました。
7月28日付けで『Frontiers in Psychology』に掲載された報告では、「手書きに用いられる多くの感覚が脳を活性化させ、記憶力を高める」と指摘されています。
手書きで学習能力が最大化
研究チームは、12名の青少年と12名の子どもを対象に、「手書き」と「キーボード」における脳波活動の違いを調べました。同チームは、2017年から同様の実験を複数回していますが、子どもを被験者にするのは初めてです。
実験では、被験者に250以上の電極がついた専用のフードを被ってもらい、脳が活性化する際の電気信号を記録しました。実験は1人あたり45分かかり、1秒間に500のデータが取られます。
その結果、青少年と子どもの両方で、脳がより活性化するのはキーボードでなく手書きの場合でした。
研究主任のオードリー・ファン・デル・ミーア教授は「手で文字を書くと、脳の感覚運動野が活発に働き始めます。手で感じる筆圧や書いた文字を見ること、書いているときの音など、あらゆる感覚が脳を刺激することで、内容が”フック”のように頭に残りやすくなる」と説明します。
さらに、手書きにより生じる多くの感覚は、脳内のさまざまな領域間を相互接触させ、学習効果を最大化させるのです。
脳の成長は”苦労”によって生まれる
ミーア教授は「手書きの効果は大人にも同様に見られますが、早い時期から学校で手書きの習慣をつけることが重要」と指摘します。
その思いとは裏腹に、今日の子どもたちは、スマホやPC、タブレットに費やす時間が目に見えて増えており、教育現場もデジタル化にシフトしています。
手書きで文字を学ぶには時間と労力がかありますが、脳の成長には苦労が必要です。
文字を覚えるには手書きが一番ですし、指の細かな運動や感覚を必要とすることで、脳を学習状態に開いておくことができます。キーボードやタブレットでは、脳の活動が最小化され、学習効果が高まりません。
ミーア教授は「脳を成長させるには、その力が最大化された状態で使用する必要があります。そのためには、いろんな人と出会って会話し、予測できない自然に触れて、脳に苦労させなければなりません。
困難に直面したときほど、脳は潜在能力を発揮して成長するのです」と述べています。
これは漢字やカナ、ひらがなが複雑に混じり合う日本語の学習にこそ言えることではないでしょうか。
参考文献
medicalxpress
提供元・ナゾロジー
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