「ブラジルで蝶が羽ばたくとテキサスで竜巻が起きる」
これはバタフライエフェクトとして知られる気象の複雑さを示した極端なたとえですが、あながち冗談ともいえません。
三重大学の研究グループの新しい研究は、日本の猛暑の原因がアフリカにあると報告しています。
アフリカのサヘル地域(サハラ砂漠のすぐ南)で雨雲が大きく発達すると、日本上空の高気圧を強める引き金となり、日本が猛暑になるというのです。
この研究の詳細は、気候分野のトップジャーナルであるドイツの学術雑誌『気候力学(Climate Dynamics)』に2021年5月20日付でオンライン掲載されています。
日本の猛暑の引き金はアフリカにあった
今回、三重大学生物資源学研究科の立花義裕らの研究グループは、39年間にわたる地球気候の観測値の分析と数値シミュレーションから、日本の猛暑がアフリカのサヘル地域の雨雲の発達と関連していると報告しています。
サヘル地域とは、サハラ砂漠の南に位置する一帯を指します。
この地域の気候については、主にヨーロッパの研究者が調査を行っていて、あまり日本で着目している研究者はいません。
確かに地球の気象は遠隔地の気候と複雑に絡み合っていて、日本の異常気象がエルニーニョなど太平洋上の気候に影響されるという報告はあります。
しかし、これまで遠く離れたサヘル地域のような陸上の雨雲が、日本の気候に影響するという視点は見逃されていました。
では、いったいどういった理屈で、遠いアフリカの雨雲が日本の猛暑の引き金となるのでしょうか?
遠いサヘル地域の気候が日本に届くわけ
サヘル地域は雨季と乾季が明確に区別されたサバナ気候で、雨季は6月~9月にやってきます。
このときサヘル地域一帯は、広く上空が雨雲におおわれ、大量の雨が降ります。
雲は上空で水蒸気が周囲に熱を放出し水に変化することで発生します。
そのため雲が発生すると、周囲の大気の温度が上がる凝結加熱というものが起こります。
サヘル地域の雨季のように、大量の雲が広域に発生した場合、それは大量の凝結加熱を大気中に引き起こすのです。
これは、アフリカ北部上空の高気圧を強める原因となります。この強化された高気圧はヨーロッパ上空に吹く偏西風を蛇行させます。
この偏西風の蛇行は、遠くアジア地域にまで続いていきます。
偏西風は通常真っ直ぐに吹きますが、これが南北に大きく蛇行して遠くまで続いた場合、その山と谷に対応する場所に長く停滞する高気圧と低気圧を発生させます。
結果的にこれは、その地域に異常気象を引き起こす原因となります。
そして日本上空では、この偏西風の蛇行により、強い高気圧が張り出すのです。
遠いサヘル地域の雨雲により発達した高気圧が、偏西風によってまるで電界と磁界で伝わる電磁波のように、低気圧と高気圧をつなげて伝わってくるわけです。
高気圧が強まると、雲がなくなるため日差しが地上に届きやすくなり、また大気が圧縮されるため気温が高くなります。
これがサヘル地域の雨雲が、日本に猛暑を引き起こすメカニズムです。
実際、日本で観測史上最高の猛暑を記録した2018年には、サヘル地域でも記録的な雨量が観測されています。
近年サヘル地域の雨量は増加に転じていることが報告されています。
この傾向が続く場合、日本も今後は猛暑が頻発することになるでしょう。
人間にとっては、何の関連も見いだせないような遠く離れた地域の天気でも、地球にとってはすべてが連鎖してつながった巨大な大気の運動です。
風が吹くと桶屋が儲かるように、サヘルで大雨が降ると日本で猛暑が起きるのです。
参考文献
日本やアジアの異常気象の一因が アフリカのサヘル地域の雨雲にあることを初めて解明 ― アフリカのサヘル地域で大雨が降れば、日本は猛暑に ―(三重大Rナビ)
元論文
Possible semi-circumglobal teleconnection across Eurasia driven by deep convection over the Sahel
提供元・ナゾロジー
【関連記事】
・ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
・人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
・深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
・「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
・人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功