ノルウェーの企業・Wind Catching Systems AS(2017年設立)が、エッフェル塔より大きな風力タービン「Windcatcher」の建設計画を発表しました。
Windcatcherは海上に設置され、最終的な高さは324メートルとなります。
サイズ以外には、従来の風力タービンと比べて、どういった点が優れているのでしょう。
また、完成はいつ頃を予定しているのでしょうか。
1基で「ヨーロッパ8万世帯分」の電力を賄える
今、世界中で再生可能エネルギーへの投資がかつてないほど高まっています。
その反面、環境への影響という点では、それぞれに問題があるようです。
太陽光発電は断続的であり、水力発電のダムは地域の野生動物に悪影響を与え、地熱発電は高価で利用しにくいなどの問題があります。
風力発電も例外ではありません。
大きな欠点の一つが、メンテナンスにかかるコストです。
一般に、風力タービンの運用・メンテナンス費は、ライフサイクルコスト(製造〜運用終了までにかかる全費用)の25〜30%を占めます。
「この点、Windcatcherには利点がある」と同社CFO(最高財務責任者)のロニー・カールセン氏は言います。
「現在の海上風力タービンでは、メンテナンスや風車の設置に、大型クレーンを搭載した多くの専用船が必要です。
しかしWindcatcherは、エレベーターシステムを搭載することでクレーンを必要としませんし、重作業はすべて甲板で行います。
また、従来の風力タービンは耐用年数が30年程度ですが、Windcatcherは50年に達します。
これにより、運用コストを大幅に削減することが可能です」と説明します。
もう一つの課題は、いかにして潜在的な出力を最大化するかということです。
従来のタービンでは、風速が12m/sに達するとブレードが回転し始めますが、ブレードがあまり速く回転しないよう、それ以上には加速しません。
一方のWindcatcherは、個々のローターを小さくすることで、風速17〜18m/sと速いスピードで回転できます。
設計者のアスビョルン・ネス(Asbjørn Nes)氏によると、5基のWindcatcherで、従来の海上風力タービン25基分の発電量に相当するとのこと。
さらに、全体的な効果として、年間のエネルギー出力が500%向上し、1基でヨーロッパの8万世帯分の電力を賄うことができます。
もう一点の懸念事項は、生態系、とくに海上を飛ぶ鳥への悪影響です。
現在の風力タービンは、細長い風車が1本立っているようなものなので、鳥の群れがそれに気づかず、激突する事故があります。
カールセン氏は「この問題を指摘する声は多く、私たちも真剣に解決策を考えています。
現時点では、ブレードを黒くすることで視認性を高める案を計画しています。これは従来の風力タービンでも大きな効果をあげている方法です。
また、Windcatcherは高さ、幅ともに巨大なので、鳥がぶつかることも少ないでしょう」と述べています。
では、Windcatcherの完成時期はいつ頃になるのでしょうか。
運用開始は2023〜2024年を予定
Windcatcherは革新的なデザインと機能を備えていますが、すぐに建設作業に入ることをできません。
同社は現在、伊・ミラノ工科大学(Politecnico di Milano)のエンジニアと共同で、このデザインを支える技術の開発と機能面の検証に注力しています。
カールセン氏は「このような大規模プロジェクトには長い時間がかかります。今はシステム作動のテストをしている段階で、秋には結果が出る予定です。
すべてが順調に進めば、来年中には建設作業を開始し、2023年か2024年頃には海上で実用開始されるでしょう」と説明します。
Windcatcherは、地球の気候変動やエネルギー問題を解決する一助となるのでしょうか。
今後に期待です。
参考文献
The “Windcatcher”: Bigger Than The Eiffel Tower And Can Power 80,000 Homes, Say Developers
1,000-foot multi-rotor floating Windcatchers to power 80,000 homes each
提供元・ナゾロジー
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