私たちは長年忘れていたことでも、写真を見たり昔話を聞いたりして思い出すことがあります。
しかし新しい研究によると、真実ではない記憶でもいわば「思い出す」ことが可能です。
ドイツ・ハーゲン大学の心理学者アイリーン・オーバスト氏ら研究チームは、簡単な方法で偽の記憶を作り出すことに成功しました。また特定の方法で偽の記憶を消し去ることもできたとのこと。
私たちの記憶とは案外もろいものだったようです。
研究の詳細は、2月16日付の学術誌『PANS』に掲載されました。
両親と協力して記憶を捏造する
新しい研究では、年齢中央値23歳の参加者52人に偽の記憶を植え付ける実験が行われました。
この実験に協力したのは参加者たちの両親です。
両親には、自分の子供に起こった本当の出来事と、もっともらしいが実際には起こっていない偽の出来事を提出してもらいました。
そして研究チームは、それぞれの出来事について、「誰がその場にいたか」「いつ起こったのか」などの詳細な点を含めて、参加者に思い出してもらうようにしました。
これを1セッションとし、期間を空けて複数回、同じことを行ないました。
その結果、3回目のセッションでは、ほとんどの参加者が偽の出来事を本当のことだと信じてしまいました。
しかも参加者の半数以上が、偽の記憶を信じるだけでなく自身で発展させていたとのこと。
この実験結果は、記憶の捏造がいかに簡単か示しています。
しかし、これが子供のころの想い出ではなく、法的な証言に関係してくる場合はどうなるでしょうか?
偽りの証言が横行するおそれは十分にあるでしょう。
そこで研究チームは、捏造記憶を消し去るための実験も行いました。
捏造された偽の記憶を崩すための方法
追加実験の結果、研究チームは偽の記憶を見分けるために次の2つの方法が役立つと述べています。
①対象者に「記憶の源を思い出す」よう依頼する
②対象者に「人は、何度も思い出すよう圧力をかけられると、偽の記憶を作り出す傾向がある」ことを説明する
最終的にチームは、この2つの方法で、参加者が作り出した偽の記憶のほとんどを消し去る(元に戻す)ことができました。
オーバスト氏は、「もし、人々にこの2点を認識させることができれば、彼らは自分自身の記憶や回想に触れ、他の情報源からもたらされる暗示を排除できる」と述べています。
研究チームは偽の記憶を完全に消し去ることはできませんでしたが、最初のセッションの承諾率(15~25%)にまで戻すことができました。
1年後には74%の参加者が自分の偽の記憶を否定するか、「覚えていない」と答えられたのです。
つまり、そもそも最初から偽の記憶を受け入れてしまう人には効果がないのですが、圧力を受けて捏造してしまった記憶は逆転させられると言えます。
またこの機会に、真実の記憶を消し去る実験も行われましたが、こちらは全く影響を受けなかったとのこと。
さて、今回の実験から記憶は捏造することも崩すことも比較的簡単だと分かります。では、私たちの記憶はどこまで正確なのでしょうか?
もしかしたら、私たちも自分には分からないだけで、偽の記憶を本気で信じているのかもしれません。
参考文献
SCIENTISTS CAN IMPLANT FALSE MEMORIES — AND REVERSE THEM
元論文
Rich false memories of autobiographical events can be reversed
提供元・ナゾロジー
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