壁の向こう側を透視するような超能力を、「クレアボイアンス(clairvoyance)」といいますが、これは科学の力で実現可能でしょうか?
米国国立標準技術研究所(NIST)の新しい研究は、無線信号を利用して壁に隔てられた向こう側を透視する方法を開発したと報告しています。
この方法は非常に応答が早いため、リアルタイムに壁の向こう側を画像化できるだけでなく、小さく高速で移動するスペースデブリなどの追跡にも役立つとのこと。
研究の詳細は、オープンアクセスジャーナル『Nature Communications』に6月25日付で掲載されています。
マルチサイトレーダーで対象の位置を割り出す
携帯電話が屋内でも使えるように、無線信号は基本的にコンクリート、乾式壁、木、ガラスなどほとんどすべてのものを通過します。
これをレーダーのように使用して、壁の向こう側にある物体を発見しようというのが今回の研究です。
この方法は「m-Widar (microwave image detection, analysis and ranging)」と名付けらています。
日本語にすると「マイクロ波による画像検出、分析、および測距」という意味です。
そういわれても、あまりイメージがわきませんが、やっていることはマルチサイトレーダー(multisite radar)のコンセプトと同じです。
マルチサイトレーダーは、複数の電磁パルスを発射して、ターゲットに当たったエコーを受信し、信号の往復時間を使って三角測量法で対象の位置を特定する技術です。
今回のシステムは、これを無線信号を使って行ったというものです。
実験装置は下の画像のようなもので、手前に12個の円筒が並んでいますが、これが無線信号の発信源です。そしてその中央に受信機が設置されています。
こうした装置で、マルチサイトレーダーと同じようにして壁の向こう側にいる人の反応を探ったのです。
壁の向こう側をリアルタイムに画像化
では無線信号の反応は実際どのようになったのでしょうか?
これは実験の様子を映した動画です。無響室を使って、部屋の中を人にあるきまわってもらっています。
左側が実験装置、右側が画像化された無線信号の反応です。
最初は、壁などを設置せずに実験を行っています。
ここでは右側の画像に、無線信号を反射して動き回る人の位置がはっきりと確認できています。
では乾式壁をおいて、視界を遮った場合どうなるでしょうか?
こちらでは、12台の無線信号送信機との間を、乾式壁をおいて仕切っています。
目隠しされた状態ですが、こちらでも問題なく、移動する人の位置を画像化して検出できているのがわかります。
まだ実験の段階なので、画像は曖昧な表現ですが、それでもはっきりと人のいる位置を特定できます。
NISTでこのシステムの開発を担当した物理学者のファビオ・ダ・シルバ(Fabio da Silva)氏は、「このシステムは1つの画像フレームを作るのに、わずか数マイクロ秒のデータで十分だ」と語ります。
それは非常に応答速度の早いレーダーシステムということで、ほぼ光の速さでサンプリングが可能です。
この応答速度の早さは、壁を透過するという特性だけでなく、非常に高速で移動する物体の位置をリアルタイムに検出する際にも役立つのだといいます。
ダ・シルバ氏によると「このシステムは、秒速10km以上で飛んでいるミリサイズやスペースデブリなどの高速移動体を、離れた場所から追跡することができる」とのこと。
また将来的には、量子もつれを使用して感度や画像を改善することができるとも説明しています。
この技術は、火災現場などの壁や煙で見通しが効かない状況での人命救助に活躍が期待できる他、ダ・シルバ氏が語るように宇宙開発において危険となる、高速で移動するスペースデブリの位置を捉えるために役立つと考えられています。
参考文献
NIST Method Uses Radio Signals to Image Hidden and Speeding Objects(NIST)
元論文
Continuous-capture microwave imaging
提供元・ナゾロジー
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