ペルーが新型コロナウイルスのパンデミックに見舞われてから、すでに1年と3か月が過ぎました。6月14日発表の公式統計では、国内のコロナ累計感染者数は200万4,252人で死者数は18万8,921人、人口10万人あたりの死亡者は世界最多になっています。また、6月6日に行われたペルー大統領選決選投票では極左候補が当選するなど、7月で建国200周年を迎えるペルーの歴史は大きく変わろうとしています。
世界最悪のコロナ死亡率
パンデミック発生以来、新型コロナウイルスの感染状況を毎日公表し続けてきたペルー保健省。
一方で、全国死者数統計(Sinadef)との乖離(かいり)が以前から問題視されていました。国内外の医療専門チームの勧告を受けたペルー政府はコロナ死者数を再集計し、発表済統計の2.6倍にあたる18万764人に修正したというわけです。人口10万人あたりの犠牲者数は約540人、長らく世界最悪といわれたベルギーをはるかにしのぐ結果となってしまいました。
現在のコロナ対策
2020年3月16日に発令された国家緊急事態宣言は現在も継続されています。ただし当初のように全国一律の移動制限を設けるのではなく、国内の感染地域を4段階の警戒レベルに分類し、それぞれに応じた対策をとっています。感染警戒レベルが「非常に高い」リマ州では、月~土曜日の夜間(午後10時から翌日午前4時まで)と日曜日(終日)が外出禁止になっているほか、日曜日の自家用車使用も禁止されています。
スーパーマーケットや市場、薬局、銀行の最大収容人数は通常時の50%、レストランの屋外(テラス席)は40%で屋内は30%、文化センターや図書館、博物館、考古学遺跡などは40%と細かく規定されています。加えてスーパーマーケットや薬局を利用する際には二重マスクが義務化され、さらにフェースシールドの着用も推奨する徹底ぶり。
ここまでやっても感染拡大が収まらないとは、本当にやっかいなウイルスですね。
ペルー大統領選・決選投票
2021年6月6日(日)に行われたペルー大統領選の決選投票は、中道右派で都市部に支持基盤を持つフエルサ・ポプラル党党首のケイコ・フジモリ氏と、急進左派であるペルーリブレ党ペドロ・カスティージョ氏との対決になりました。
ケイコ・フジモリ氏はアルベルト・フジモリ元大統領の長女。19歳の若さで同氏のファーストレディー代理を務めるなど、豊かな政治経験と実績があります。一方、アンデスの山村出身で元教師のペドロ・カスティージョ氏は、公立学校教師の待遇改善や関連法の廃止などを求めた2017年の教員ストライキを通じ、その名が知られるようになりました。
憲法改正や鉱山を始めとする基幹産業の国有化、教員の給与アップと富の再分配、輸入規制など、現行の民主主義を真っ向から否定するカスティージョ氏は貧困層から絶大な支持を得ています。
開票当初はフジモリ氏が優勢でしたが、地方部の得票を背景にカスティージョ氏が逆転。開票率100%(集計率99.303 %)時点でカスティージョ氏50.197%、フジモリ氏49.803%。僅差ではありますが、カスティージョ氏の当選がほぼ確定しています。しかし、不正投票の疑いでフエルサ・ポプラル側が中央選挙管理委員会(JNE)に異議を申し立て、一部では開票の見直しも行われています。これに対しカスティージ氏は「相手の挑発に乗らないよう、辛抱強さと冷静さが必要だ。しかし(選挙結果という民意を尊重しない相手の存在によって)我々が危機的な瞬間にいることを理解しなければならない」との声明を出しました。
各陣営の支持者たちはリマ市内にあるJNEや特別選挙管理委員会(JEE)の事務所前に集結。それぞれが再集計の行方を見守っていますが、JNEやJEEの対応次第では一触即発の事態も予想されます。「新自由主義vs共産主義」の様相を呈した国内を二分する今回の結果に、多くの市民が不安と戸惑いを抱えているのが現状です。
ペルーの今後は?コロナ対策について
世界最悪の死亡率という不名誉な肩書きを背負う現在のペルー。
6月9日時点のワクチン接種回数は計495万回、必要回数のワクチン接種完了者は人口の5.1%と未だ低い水準ではあるものの、新規感染者数は今年4月のピーク時に比べ40%近く減少しており、少しずつ効果が現れてきているようです。
しかし、ペルー南部の都市アレキパでは、イギリスで猛威を振るったアルファ株よりも感染率や死亡率が高いとされるデルタ株(インド型)が確認されているので、楽観視はできません。
北米へのワクチン接種ツアーなど自己防衛策も見受けられますが、それもほんの一握りの富裕層の話。マスクとフェイスシールドの着用や社会的距離の確保など、基本的な感染予防措置の適用は今後も継続されるでしょう。
ペルーの今後は?左派政権誕生による影響
コロナで疲弊したペルー経済の立て直しや感染封じ込め対策など、新政権が担うべき課題は山積されていますが、カスティージョ氏が所属するペルーリブレ党の国会議席数は過半数に満たず(37/130議席)、立法府の主導権を握るのは容易ではありません。
今回の選挙結果を通じ、ペルー国内における富裕層と貧困層間の格差や新自由主義と共産主義という思想間の対立的構図が明確になってしまったことで、近い将来政治が混乱し国家運営どころでなくなる可能性も出てきます。カスティージョ氏自身は隣国ボリビアのエボ・モラレス元大統領を手本にしているため、たとえ左派政権が誕生しても直ちに極端な政策変更はないとする見方もあります。
選挙中は過激な発言を繰り返していた同氏ですが、当選をほぼ確実なものにしてからは「(個人の)私有財産と中央銀行の自主性を尊重する」とも発言しているので、ペルー在住者としてはそれを信じるしかありません。
ペルー独立200周年という記念すべき節目の年の左派政権誕生。この国が長年放置し、燻り続けてきた経済問題や教育事情、地方間格差などの様々な「火種」がコロナで一気に燃え広がった結果とも言えるでしょう。ペルーの社会的格差問題についてはこれまで何度も触れてきましたが、国を二分するほど根深いものであったという事実にはただ驚くばかりです。7月28日の新大統領就任式では、いったいどのような演説が行われるのでしょうか。
ペルーがこれから進むであろう方向性が見えてきたら、また皆様にお伝えしたいと思います。
文・写真 原田慶子/提供元・たびこふれ
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