白黒シマシマな髪はストレスとの激闘を語っていました。

アメリカのコロンビア大学の研究者たちにより6月22日に『eLife』に掲載された論文によれば、ストレスは白髪化を促し、脱ストレスが再黒髪化を促すことを発見したそう。

ストレスと白髪の関係は古くから噂されてきましたが、科学的な因果関係と定量化が人間で行われたのは今回がはじめてとなります。

いったいどんな仕組みでストレスは髪の色を変化させていたのでしょうか?

研究内容はプレプリント版として『bioRxiv』にて無料公開された後に加筆され、今回正式に学術雑誌『eLife』に掲載されました。

目次

  1. 白黒シマシマな髪を本気で研究してみた
  2. ストレス解消で白髪の根元が黒くなっていく
  3. 精神とミトコンドリアの未知のつながり
  4. 老化は単純に衰えるだけではなかった

白黒シマシマな髪を本気で研究してみた

脱ストレスで「白髪は元に戻る」と明らかに
(画像=『ナゾロジー』より 引用)
脱ストレスで「白髪は元に戻る」と明らかに
(画像=『ナゾロジー』より 引用)
脱ストレスで「白髪は元に戻る」と明らかに
(画像=『ナゾロジー』より 引用)
脱ストレスで「白髪は元に戻る」と明らかに
(画像=Credit:Ayelet M Rosenberg ei al (2021) . eLife . Quantitative mapping of human hair greying and reversal in relation to life stress . Canva . ナゾロジー編、『ナゾロジー』より 引用)

灰色のマウスに長期的な心理ストレスを与えと、体毛から色素が抜けて体が白くなっていくことが知られています。

ただし毛の色が一気に変わるわけではありません。

影響を受けるのは生産中の毛のみであり、既にはえ終わっている部分の色は残り続けます。

結果として、根元が白く先端が色付きという2色の毛ができあがるのです。

コロンビア大学で人間の髪を調べていた研究者はある日、逆パターンの「先端が白く根元が黒い」髪を発見します。

このような逆パターンの毛ができるには、一度白髪になった毛が再び黒く(色素化)ならなければなりません。

興味をもった研究者はボランティアから髪の毛を集めて、白髪化と色素化を起こしているものを探し、1本1本変化が起きた時期を記録していきました。

結果、同じ個人から採取した髪において、白髪化と色素化がほぼ同時に起きていたことが判明します。

この結果から研究者たちは、個人に起きたストレスの変化が髪の色に影響を与えていると予想し、調査を開始しました。

ストレス解消で白髪の根元が黒くなっていく

脱ストレスで「白髪は元に戻る」と明らかに
(画像=髪の白黒シマシマはストレスの有る無しによってできていた / Credit:Ayelet M Rosenberg ei al (2021) . eLife . Quantitative mapping of human hair greying and reversal in relation to life stress . Canva . ナゾロジー編、 『ナゾロジー』より 引用)

ストレスと髪の色の変化を調べるにあたり研究者たちはまず、複数のボランティアたちに日々のストレスレベルを記録した「ストレス日記」を、作成してもらいました。

鍵となったのは、上の図の右に示すように「有色・白・有色」のパターンを示した毛です。

仮説が正しければ、ボランティアが感じたストレスの時期と毛の色の変化のパターンは一致するはず。

実際に分析を行った結果、仮説どおりストレスの時期と毛のパターンが一致しました。

参加者の白髪化はストレスによって引き起こされ、色素化は脱ストレスによって起きていたのです。

問題は、心理的なストレスが髪の色に影響を与える仕組みです。

この仕組みを解き明かすことができなければ、人工的に白髪を黒髪に戻すことはできません。

精神とミトコンドリアの未知のつながり

脱ストレスで「白髪は元に戻る」と明らかに
(画像=精神はミトコンドリアの活性に影響する / Credit:Canva . ナゾロジー編、『ナゾロジー』より 引用)

ストレスがどのように白髪を引き起こすのか?

謎を解明するため研究者たちは白と黒でシマシマになっているそれぞれの部分で、どのようなタンパク質が存在するかを調べました。

結果、白髪が発生する際には300種類ものタンパク質が変化していることが判明します。

また興味深いことに、白髪でのタンパク質の変化のうち多くは「失われているのではなくむしろ増加」していました。

この結果は、白髪の発生という現象が、色素にかかわる因子を失った結果ではなく、髪を生産する細胞の異常な活性化により起きていることを示します。

この活性化において大きな役割の1つを占めていると考えられるのは、ミトコンドリアでした。

白髪ではミトコンドリアのDNA及びミトコンドリアのエネルギー生産に関連するタンパク質の量が大幅に増加していたのです。

この結果は、ストレスを受けて白髪を作るようになったしまった毛穴の細胞では、ミトコンドリアの量そのものが著しく増加すると共に、特定のエネルギー生産経路が異常に活性化していることを示します。

老化は単純に衰えるだけではなかった

脱ストレスで「白髪は元に戻る」と明らかに
(画像=老化現象には細胞を活性化させるものもある / Credit:Canva . ナゾロジー編、 『ナゾロジー』より 引用)

今回の研究により、白髪が元に戻る現象について様々な新事実が示されました。

ストレスによる白髪は脱ストレスにより再び色素化するという結果は、哺乳類に共通した老化現象だと考えられていた白髪化が、心によって部分的に逆転し、若返り(色素化)することを示します。

一方で詳細な分析により、ストレスによる白髪化が色素化に必要な因子を失った結果ではなく、ミトコンドリア量の増大をはじめとした様々なタンパク質の異常活性により起こることが示されました。

もしかしたら若さや健康というものは、単純な活発さよりも調節能力にこそ本質があるのかもしれません。

なお、今回の研究で白髪化と再色素化が確認された被験者の多くは中年に位置する人々でした。

中年の人々は自然な老化による白髪化の圧力にさらされた状態にあり、ストレスによる圧力が白髪化の「しきい値」(最後の一線)を超える後押しになっていると考えています。

研究者たちは今後、ストレスによる白髪化の解明を進め、老化と心とミトコンドリアの関係を調べていくとのこと。

成功すれば、未来の世界では飲む髪染めやミトコンドリアをターゲットにした抗老化剤や精神薬が開発されるかもしれません。

参考文献
It’s True: Stress Does Turn Hair Gray (And It’s Reversible)
元論文
Quantitative mapping of human hair greying and reversal in relation to life stress

提供元・ナゾロジー

【関連記事】
ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功