老後も働き続けるために、再就職に有利な資格を取ろうと考える人もいるだろう。しかしやみくもに資格を取っても、思うように仕事や再就職に活かせないこともある。今回は、今の仕事にも活かせて、老後の再就職にも役立つ資格を5つ紹介する。試験の難易度や資格取得後のキャリアパスについても見ていこう。

老後の資格を取る際の2つの注意点

老後の仕事のために資格を取るなら、時間とコストをかける前に、以下の注意点を参考に必要な資格を選ぶべきだ。

注意点1. 今の仕事と関係のあるものを選ぶ

これまでの仕事の経験が活かせないと、その資格を活用したキャリアプランを描くのは難しい。特に定年退職後に独立開業を目指すなら、なおさらだ。

注意点2. 未経験のジャンルに挑戦する場合はボランティアや研究会に積極参加を

「老後は新しいことにチャレンジしたい」という人もいるだろう。士業は自分の事務所がある地域の支部に所属をすることが多いため、支部の活動に積極的に参加し、情報を収集するといいだろう。

上記を考えずに資格を選ぶと、取ったはいいが実際の再就職で役に立たないかもしれない。資格選びでは、これまでのキャリアと今後やりたいことをしっかり考えるべきだろう。

ここからは、今の仕事でも使えて、老後の再就職にも活かせる資格を5つ紹介する。基本的な仕事内容や試験の合格率、資格取得後のキャリパスについても紹介するので、資格選びの際はぜひ参考にしてほしい。

1. マンション管理士    マンションの問題解決のエキスパート

マンション管理士は、マンションの管理上のさまざまな問題について、管理組合・住民の相談に応じて助言や指導をし、解決に導くコンサルタントだ。現在自分が住んでいるマンションの管理組合の理事や、不動産管理会社など不動産業界に勤めている人は目指しやすい資格と言える。仕事の内容は、以下のようなものがある。

  • マンション管理組合の規定制定や変更に係る業務
  • 修繕計画・工事に係る業務
  • 管理会社の変更など管理委託の見直しに係る業務
  • 管理費滞納対策の関係業務
  • 相談会での相談業務

【合格率】
2018年度の合格率は、7.9%だ。マンション管理士試験に合格後、指定登録機関に登録することで「マンション管理士」の名称を使って仕事をすることができる。

【試験と勉強方法】
試験は年に1回で、合格者の総勉強時間は250~500時間ほどだ。週に10~20時間勉強するなら、約半年の勉強期間が必要になる。独学でも合格することはできるが、通信講座や通学講座を利用する人が多い。費用は最も安い通信講座で年4万円、通学講座では年10万円程度だ。

【資格取得後のキャリアパス】
独立開業した場合、顧客となるのはマンションの管理組合で、顧問料が主な収入源だ。古いマンションの増加や住民の高齢化などから、管理組合の運営に不安を感じる人が増えており、マンション管理の専門家であるマンション管理士の活躍が期待されている。独立開業しない場合でも、不動産管理会社などでマンション管理士を募集していることもあるため、積極的にチェックしてみよう。

2. 宅地建物取引士  不動産取引には欠かせない資格

宅地建物取引士は、不動産取引の知識がない顧客に的確な提案やアドバイスをする専門家だ。一般的に家を買ったりアパートを借りたりする際は、不動産業者を通して行う。その際、宅地建物取引士が物件や取引条件に関する情報(重要事項)を説明し、その内容を記載した重要事項説明書と契約書に記名・押印をする必要がある。不動産業界で働く人はもちろん、金融機関で融資を担当する人も活かせる資格だ。担保を必要とする融資では、不動産に対する適切な知識や鑑定力がなければ、融資の判断が難しくなる。

宅地建物取引士でなければできない独占業務には、以下のものがある。

  • 重要事項の説明業務
  • 重要事項説明書への記名・押印業務
  • 契約書(37条書面)への記名・押印業務

【合格率】
2018年度の宅地建物取引士資格試験の合格率は、15.6%だ。宅地建物取引士になるためには、試験に合格した後、試験を実施した都道府県知事による資格登録を受け、知事の発行する宅地建物取引士証の交付を受ける必要がある。

【試験と勉強方法】
試験は年に1回で、合格者の総勉強時間は300~400時間ほどだ。半年くらい前から取りかかるなら、週に10時間程度の勉強が必要になる。宅建試験の問題の7~8割が過去に出題された知識レベルであることから、過去問を繰り返し学習することが合格への近道と言える。独学でも合格することはできるが、通信講座や通学講座を利用する人が多い。費用は最も安い通信講座で3万円から、通学講座では10万円程度だ。

【資格取得後のキャリアパス】
重要事項の説明と重要事項説明書・契約書への記名・捺印は、宅地建物取引士でなければできない。また宅地建物取引業者では、事務所ごとに従業員の5人に1人は宅地建物取引士を置かなければならない。つまり宅地建物取引士は不動産業では欠かせない資格であり、再就職の際に有利と言える。また、不動産業界で経験を積んだ人なら、独立開業もできる資格だ。

3. 社会保険労務士  労働、社会保険の専門家

社会保険労務士は、労務管理や社会保険を扱う専門家だ。仕事内容は、労働社会保険諸法令に基づく各種の申請書類などの作成や提出代行、労務管理、社会保険に関する相談・指導など多岐に渡る。現在、企業で総務や人事の仕事を担当している人は、仕事内容が近いため資格取得に有利だ。試験問題は労務・社会保険関係の法律がほとんどなので、法務担当のビジネスパーソンも取りやすいと言える。

主な独占業務には、以下のようなものがある。

  • 労働社会保険諸法令に基づく申請書等及び帳簿書類の作成
  • 申請書等の提出代行
  • 申請等についての事務代理

    「特定社会保険労務士」にしかできない仕事もある。「特定社会保険労務士」になるには、司法研修を修了し、紛争解決手続代理業務試験に合格する必要がある。

【合格率】
2018年度の社会保険労務士試験の合格率は、6.3%と決して高くはない。社会保険労務士になるためには、試験に合格後、一定の実務経験などを経て、全国社会保険労務士連合会の「社会保険労務士名簿」に登録する必要がある。

【試験と勉強方法】
試験は年に1回で、合格者の総勉強時間は1,000時間程度だ。社会保険労務士試験は働きながら合格を目指すことができる資格で、1日2時間勉強する場合は、1年5ヵ月ほどの勉強期間が必要になる。毎年の法改正や科目の多さから、通信講座や通学講座を利用する人が多く、費用は安い通信講座で5万円、通学講座では10万円程度だ。

【資格取得後のキャリアパス】
社会保険労務士として働く方法は、企業内の人事部や総務部で働く「勤務等社会保険労務士」と、独立開業して自分の事務所を開く「開業社会保険労務士」のどちらかだ。独立開業した場合、中小企業を顧客として、労動と社会保険の諸手続きの代行とコンサルティング業務を行うことで、顧問料収入を得ることができる。

4. 行政書士  行政関連の書類作成など緻密さが求められる

行政書士は法律を扱う国家資格であり、官公署に提出する書類や、権利義務・事実証明に関する書類の作成を行うことができる。これらの書類の作成代行や相談業務が主な仕事だ。扱う書類は多種多様であり、行政手続きの専門家として仕事をすることになる。法律に関連する書類の作成が主な業務なので、すでに企業の法務・総務などの部署で働いている人には取りやすい資格だろう。また日頃から契約関連の業務に携わる営業職も、行政書士の資格を普段の仕事で活かせるはずだ。

行政書士の主な業務には、以下のようなものがある。

  • 官公署に提出する書類の作成とその代理、相談業務
  • 権利義務に関する書類の作成とその代理、相談業務
  • 事実証明に関する書類の作成とその代理、相談業務
  • その他特定業務相談業務

【合格率】
2018年度の行政書士試験の合格率は、12.7%だ。行政書士になるためには、試験に合格し行政書士会に入会する必要がある。

【試験と勉強方法】
試験は年に1回で、合格者の総勉強時間は1,000時間ほどだ。毎日6時間、月に180時間程度勉強した場合、約半年の勉強期間が必要になる。法令科目が多いため、暗記だけでは対応が難しい。独学でも合格することはできるが、通信講座や通学講座を利用して学習のコツをつかむほうがいいだろう。費用は最も安い通信講座で5万円、通学講座では10万円程度だ

【資格取得後のキャリアパス】
行政書士として働く方法は、行政書士の資格を活かし一般企業の法務・総務といった事務系職種で働くか、独立開業して自分で事務所を開くかのどちらかだ。行政書士が扱う書類は多岐に渡るため、再就職や開業をする際は、自分の得意領域を持っておくと他との差別化ができ、有利になるはずだ。

5. 中小企業診断士  中小企業の経営課題解決に貢献

中小企業診断士は、中小企業の経営課題に対する診断・助言を行う専門家だ。企業の成長戦略の策定についてのアドバイス、戦略実行に当たっての具体的な経営計画の策定、その実績やその後の経営環境の変化を踏まえた支援も行う。専門的知識の活用とともに、企業と行政、企業と金融機関などのパイプ役、中小企業への施策の適切な活用支援まで、幅広い活動に対応できる知識と能力が求められる。

これまでコンサルティング業界で勤務していた人や企業の経営企画部で働いている人は、業務内容が近いため比較的取りやすいと言えるだろう。また特定の分野の事業部などで事業を運営してきた経験のあるビジネスパーソンは、同業種の企業のコンサルティングでは強みを発揮しやすいはずだ。

独立開業した場合、中小企業診断士の仕事には以下のようなものがある。

  • 中小企業の顧客に対し、経営の診断及び経営に関する助言
  • 現状分析を踏まえた企業の成長戦略のアドバイス

【合格率】
中小企業診断士試験には1次と2次があり、2018年度の合格率は、1次が23.5%、2次は18.8%だ。試験に合格し、実務補習を15日以上受けるなどをして、中小企業診断士として登録することができる。

【試験と勉強方法】
1次試験と2次試験があり、1次試験は年に1回2日間行われる。合格者の平均勉強時間は1,000~1,200時間ほどだ。1次試験は7科目と科目数が多いが「科目合格制度」があり、最高3年かけて受験することもできる。通信講座や通学講座を利用する人が多く、費用は、最も安い通信講座で5万円程度から30万円程度までとさまざまだ。

【資格取得後のキャリアパス】
中小企業診断士の資格を取得した後は、コンサルティングファームなどに再就職する、もしくは独立開業を目指すという選択肢がある。独立を目指す場合は、まずは自治体や公的機関の仕事を手掛けるのが一般的だ。公的機関が設ける中小企業向けの「相談窓口」で相談員として勤務すれば、定期的な収入が得られる。  

資格は持っているだけでなく活かす努力を

今回紹介した資格はどれも簡単に取れるものではないが、60歳以上のシニアの合格者も出ているため、忙しいビジネスマンでも取得は決して不可能ではない。ちなみに、平成30年度の中小企業診断士合格者の最年長は78歳だった。

しかし資格取得後にどれだけの収入を得られるかは、事前準備や努力次第で大きく変わるだろう。資格取得を目指すならば、その後の進路を踏まえて挑戦する資格を選択し、計画的に準備を進めたい。

文・MONEY TIMES編集部
 

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