サバ、アジ、カツオ、サケ、イカなどの魚介類には寄生虫アニキサスが潜んでおり、生食の際に食中毒の原因となります。
熊本大学産業ナノマテリアル研究所の浪平 隆男准教ら研究チームは、株式会社ジャンパン・シーフーズと共同で、パルスパワーを用いた新しいアニキサス殺虫方法を開発しました。
瞬間的に大電流を流して殺虫するため、魚身の品質を保持できるというメリットがあります。
研究の詳細は6月22日、熊本大学のプレスリリースに掲載されました。
アニキサス冷凍殺虫は品質が低下する
通常、アニキサスは魚介類の内臓に寄生しているため、適切に内臓を処理すれば刺身でも安全に食べられます。
しかし魚の死後、魚体温の上昇に伴ってアニキサスは内臓から筋肉へと移動。
鮮度が落ちるにつれて、生きたアニキサスを食べてしまうリスクが高くなるのです。
その結果、アニキサスがヒトの胃腸に侵入してしまい、嘔吐や激しい痛みが生じます。
水産業界はアニキサス食中毒を防ぐため、いくつかの殺虫方法を試みてきました。
そしてアニキサスを殺虫するには、「70℃以上または60℃で1分の加熱」「-20℃以下で24時間以上冷凍」しなければいけないと分かっています。
つまり生食用では、冷凍処理でアニキサスを殺虫しなければいけないのです。
ところが冷凍処理には、ドリップの流出、退色、触感の軟化などの品質低下が伴い、商品価値も下がってしまいます。
こうした背景にあって、研究チームは「品質を低下させないアニキサス殺虫方法」を開発することにしました。
瞬間的に大電流を流してアニキサスを殺虫する
研究チームは、パルスパワーを用いてアニキサスを殺虫することに成功しました。
パルスパワーとは、蓄積した電気エネルギーを短時間(マイクロ~ナノ秒レベル)で放出する「瞬間超巨大電力」のことです。
魚身に瞬間的に大電流を流すことで、温度上昇を抑えつつ、寄生したアニキサスを殺虫できたのです。
さらにチームは、工場で使用できるパルスパワー殺虫装置を試作しました。
この装置では一度にアジの切り身3kgを約6分で殺虫できるとのこと。
パルスパワーによる殺虫方法は、従来の解凍品に比べて劣化が少なく、チルド品に近い品質が保たれます。
この世界初の新技術は、冷凍に代わるアニキサス殺虫方法として非常に有用だと考えられています。
とはいえ、実用化を進めるにはコスト面で改善の余地があるとのこと。
今後、研究チームは低コスト・省エネルギー・大量処理可能な装置の開発を目指します。
参考文献
パルスパワーを用いた新しいアニサキス殺虫方法を開発 ―アニサキス食中毒リスクのない刺身―
提供元・ナゾロジー
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