イソギンチャクは口に収まるものであれば、どんなものでも食べてしまう水中捕食者です。
アメリカ・ニューヨーク州立大学バッファロー校(University at Buffalo: UB)地質学部に所属するクリストファー・ウェルズ氏ら研究チームは、イソギンチャクの胃腔(消化吸収器官)内容物のDNAを初めて調査。
その結果、アメリカ太平洋岸に生息するイソギンチャクは陸上生物のアリを食べていたと判明しました。
研究の詳細は、6月15日付の科学誌『Environmental DNA』に掲載されました。
イソギンチャクの胃腔内容物DNA調査
自然界の生態系を理解するためには、そこに住む動物の食生活を知ることが非常に大切です。
これは陸上だけでなくさまざまな地域の海洋コミュニティにも当てはまります。
フロリダ自然史博物館の無脊椎動物学者グスタフ・ポーレイ氏によると、「イソギンチャクは海に多く生息する動物のひとつであり、周囲の食物網に影響を与えています」とのこと。
つまりイソギンチャクが何を食べているか知ることは、海洋生態系の理解を大きく深めるのです。
では、これまでイソギンチャクの食事はどのように調査されてきたのでしょうか?
それは「イソギンチャクを解剖し、最後に食べた残骸を取り出し観察する」というシンプルな方法です。
しかしこの方法は手間がかかります。
また消化液によって情報が削られ、高い信頼性が得られません。
そこで研究チームは、イソギンチャクでは初めてのDNA調査を行うことにしました。
イソギンチャクの胃腔から取り出した消化しかけの混合物から遺伝子を抽出し、生物DNAデータベースと比較して一致するものを探したのです。
アメリカ太平洋岸のイソギンチャクはアリを食べていた
調査の対象になったのは、アメリカ太平洋岸に生息する「ホワイトプラムドアネモネ(学名:Metridium farcimen)」です。
ホワイトプラムドアネモネは羽毛のような触手を特徴とする大きなイソギンチャクであり、通常状態で50cm、伸ばすと1mになることもあるのだとか。
イソギンチャクは自分から移動しないため、浮遊してきたエサを食べます。
大型種の中には、魚やカニ、クラゲなどを食べるものもいますが、多くの場合、海流にそって流れてくるプランクトンを食べているようです。
しかし今回のDNA調査の結果、研究チームは、予想外のエサを発見することになりました。
ホワイトプラムドアネモネのエサのうち10%が陸上生物であるアリで占められていたのです。
そして胃腔内で見つかったアリのほとんどは、太平洋北西部で見られる「Pale-legged Field Ant(学名:Lasius pallitarsis)」でした。
このアリには、羽をもった女王とオスが交尾するために空を飛んで群れを形成するという特徴があります。
研究チームは、「彼らは飛ぶのが得意でないため、風によって海に落とされ、イソギンチャクに食べられてしまうことがある」と解説しました。
研究結果はまた、ホワイトプラムドアネモネが溺れてしまったクモやその他の昆虫も食べていることも明らかにしています。
さて、「イソギンチャクの胃腔内容物をDNA調査する」という初めての試みは、確かに生態系を解明する助けになりました。
チームによると、今回特定できなかったDNAもまだ数多くあるため、追加調査で生態系の解明がさらに進む可能性があります。
文・ライター:大倉康弘 編集者:KAIN/提供元・ナゾロジー
参考文献
Giant sea anemone eats ants
元論文
DNA metabarcoding provides insights into the diverse diet of a dominant suspension feeder, the giant plumose anemone Metridium farcimen
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