週刊少年ジャンプの大人気漫画『呪術廻戦』。シリーズ累計発行部数が5000万部を突破したことが発表されたり、映画『劇場版 呪術廻戦0』の公開が決定したりと、その人気は留まることを知りません。
そんな社会現象となっている大人気漫画が、数学ファンの中で話題になっているのをご存知ですか?
今回は、『呪術廻戦』と関連のある数学トピックを紹介します!
※本記事は『呪術廻戦』のネタバレを一部含んでいます。
大人気最強キャラ五条悟の技には数学用語が!
『呪術廻戦』は、「呪い」がテーマのダークファンタジー漫画です。呪術師たちが、人間の負の感情により生まれた化け物である呪霊や、呪術を悪用する人間である呪詛師たちと闘います。
個性豊かでかっこいい呪術師たちが活躍する本作ですが、中でも特に人気のキャラクターは最強呪術師の五条悟!彼の使う技である「術式順転『蒼』」「術式反転『赫』」「虚式『茈』」「領域展開 無量空処」は、名前だけでもかっこよくてワクワクしますよね。
作中で、五条悟は自身の技について、こんな風に説明をしています。
“僕の術式はさ 収束する無限級数みたいなもんで
俺に近づくモノはどんどん遅くなって
結局俺まで辿りつくことはなくなるの”
(引用元:芥見下々『呪術廻戦』単行本8巻 第69話)
掛けていたサングラスを外し、それを両手の間でピタッと止めながら、自分の術式を敵に説明するシーンです。重力で左手に落ちるはずのサングラスがですが、彼の術式により、落ちることなく空中で止めることができています。つまり、サングラスは五条悟の左手に「辿りつけない」のです。
目の前に敵がいるのにも関わらず、余裕たっぷりに自身の術式を開示する五条悟。さすが最強キャラ、かっこよすぎです。
実は、ここで語られている「無限級数」は架空の造語などではなく、実際に数学用語として存在しています。
また、引き寄せる技「術式順転『蒼』」と弾く技「術式反転『赫』」については、それぞれ「収束」「発散」という対比で描かれていますが、この収束と発散も数学用語として存在しています。
さらに、数学ファンの中では「領域展開も数学用語にありそう」と話題になりましたが、残念ながら領域展開という数学用語は存在しません。しかし、「領域」も「展開」も数学用語として存在しています。
しかも「無限級数展開」という言葉が、数学ではよく使われているのです!呪術廻戦っぽい!
今回は、この無限級数と無限級数展開について解説していきます。数学を勉強して、最強呪術師の強さの秘密に迫りましょう!
「無限級数」とは?
まずは、無限級数の例を見てみましょう。以下の二つが無限級数と呼ばれるものです。
どちらも、数を足し続けていますね。
一体どのくらい足し続けるのかというと、無限級数の名の通り、無限に足し続けます。そのため、一つずつ手作業で電卓に足し算を打ち込み続けても、永遠に計算が終わることはありません。
このような「数列の項を無限に足し続けたもの」を「無限級数」と言います。
そして、上記二つの無限級数について、以下のようになることが証明されています。
上の式は、足せば足すほど、どんどん際限なく大きくなっていきます。このことを「正の無限大に発散する」と表現します。
一方で、下の式は、足し続けていくと、限りなく1に近付いていきます。このことを「1に収束する」と表現します。つまり、先ほどの五条悟のセリフにあった「収束する無限級数」は下の式のような無限級数のことです。
では次に、下の式のような足し算を、無限には続けずに有限回で止めてしまうことを考えてみましょう。
例えば、10項目まで足し算をしてみると
となります。1に近い値とはなりますが、1ではありません。
今度は、100項目まで足し算をしてみると
となります。10項目までのときよりも、かなり1に近い値となりましたが、これも1ではありません。
さらに1万項目までや1億項目までに増やした場合も同様のことが起こります。足す項数を増やせば増やすほど1にどんどん近付いてはいきますが、それでも1にはなりません。どんなに大きな数であっても有限回である限りは、1に辿りつくことはできないのです。
この辺りが、先ほど引用した五条悟のセリフ「結局俺まで辿りつくことはなくなるの」に繋がっているように感じます。
(※作中、五条悟は「アキレスと亀」に言及することで「辿りつかない」ことについて説明しています。実際、「アキレスと亀」の話の背景には、上記のような「有限回の足し算では辿りつかない」という考え方が存在しています)
ここで解説した「無限級数」や「収束・発散」は、高校の数学Ⅲで扱われています。呪術廻戦ファンの中高生の方たちには、ぜひ勉強してほしい内容です!
また、このような無限にまつわる「収束・発散」について、より厳密に理解したい場合は「ε-N論法」というものを学ぶことをオススメします。大学数学レベルの内容ですが、学んでみると、五条悟の術式への理解が一層深まるかもしれません!
「無限級数展開」とは?
次に、無限級数展開の例を見てみましょう。以下の二つが無限級数展開と呼ばれるものです。
(※「!」は階乗と呼ばれるもので、2!=2×1, 3!=3×2×1, 4!=4×3×2×1といった意味です)
左辺はsin(サイン)・cos(コサイン)という三角関数ですが、右辺は先ほど紹介した無限級数になっていますよね(右辺には引き算がありますが、引き算も「負の数を足している」と考えることができます)。
このように、何らかの関数や数を無限級数で表現することを「無限級数展開」と言います。
上記のような無限級数展開は、近似値を求めるときなどに利便性を発揮します。
例えば、x=0.1としてsin0.1の近似値を求めたい場合、右辺の式の途中までにx=0.1を代入して計算すれば良いのです。
実際、sin0.1の値は0.0998334166468…なので、かなり近い値が得られました。
また、上記二つの無限級数展開は「マクローリン展開」と呼ばれる方法で行っています。「マクローリン展開」も名前が必殺技のようでかっこいいですよね!
数学には、他にもまだまだ必殺技級のかっこいい用語がたくさん存在しています。『呪術廻戦』単行本8巻で、五条悟も「勉強は大事って話」と言っていることですし、これを機に、ぜひ数学を勉強してみてくださいね!
<注意>
教科書や数学書などでは「無限級数」を「数列の無限和」と定義することが多いですが、「関数列(関数を並べたもの)の無限和」も「無限級数」と呼ぶことがあります。今回紹介した三角関数のマクローリン展開は「関数列の無限和」ではありますが、この慣例にしたがって「無限級数」と表現しました。
参考文献
芥見下々『呪術廻戦』
高校数学の美しい物語「マクローリン展開の応用例まとめ」
「収束する無限級数とは?―呪術廻戦で学ぶ本格数学―」
提供元・ナゾロジー
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