Point
■人は高齢になるほど、たとえそれが意図的なものでなくても、害を及ぼす行動のために他者を非難し、罰したいと考える傾向が強いことが判明
■高齢者は、相手の怠慢の有無に関係なく、結果として害を招いた行動を同等に非難しがち
■意図に基づいて道徳的判断を下すことは、単に結末を非難することよりも、多くの認知的努力を要する
人は年を取るほど、たとえそれが意図的なものでなくても、害を及ぼす行動のために他者を非難し、罰したいと考える傾向が強いことが、明らかになりました。
研究はシカゴ大学のジャネット・ゲイペル氏らによって、アメリカ心理学会の年次総会でプレゼンテーションで発表されました。
Moral Judgment in Old Age: Evidence for an Intent-to-Outcome Shift
「わざとじゃないのに…」害をもたらした他者の行動をついつい非難
ゲイペル氏らは、21〜39歳の若者と63〜90歳の高齢者を対象に一連の実験を行いました。
1つ目の実験には、若者30名と高齢者30名で構成された被験者計60名が参加しました。被験者には、ある人物の行動の結果として、ポジティブまたはネガティブな結末がもたらされる8種類の仮定のシナリオが示されました。
たとえば、あるシナリオでは、ジョアンナという名前の人物とその友人が、危険なクラゲが大量にいる海の一部でボートに乗っています。友人に「泳ぎに行ってもいいか?」と尋ねられたジョアンナは、海が安全ではないことを知りながら「泳ぎに行ってもよい」と答えます。泳ぎに行った友人は、クラゲに刺されてショック状態に陥ります。
また、別のシナリオでは、ジョアンナは「地元のクラゲは危険がない」という誤った内容の記事を読み、図らずも友人を危険に陥れてしまいます。
実験の結果、高齢者は、害を招いた行動が非意図的なものだと考えられる場合であっても、偶発的に害をもたらした行動を非難し、その行動を取った人物に処罰を与えるべきだと考える傾向が強いことが分かりました。
興味深いことに、偶発的に良い結果をもたらす行動に対する評価の仕方には、年齢による違いは見られなかったといいます。
意図に基づく道徳的判断にはより多くの認知的努力が必要
2つ目の実験では、被験者は4つの異なるシナリオを示されました。1つ目は、怠慢によって偶発的な害が生じるケースです。
実験の結果、若者が怠慢を伴わない行動よりも怠慢を伴う行動をより厳しく非難するのに対して、高齢者はこれらを同等に非難することが明らかになりました。
ゲイペル氏は、この現象が年齢を重ねるにつれて人の認知機能が低下することに関連しているのではないかと考えています。
意図に基づいて道徳的判断を下すことは、単に結末を非難することよりも、多くの認知的努力を必要とします。高齢者は若者と比べて意図を考慮することをより心理的負担が大きいと感じるため、意図せずしてもたらされた害であってもついつい非難しがちになるのでしょう。
これらの発見は、特に法律制度において重要な示唆を含んでいます。たとえば、他者が有罪であるかどうかを評価しなければならない陪審員には、意図を考慮することが求められます。
高齢者は非難されている人物が持つ意図に注意を向けることが少なく、その人物がもたらしたネガティブな結末に強い関心を向けがちなのですね。
年を重ねるほどに、他者に手厳しく「有罪判決」を下してしまう…。こうした高齢者の認知の仕組みの理解は、介護や医療の分野へも活用できることでしょう。
提供元・ナゾロジー
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