ホラーゲームやホラー映画は、昼間明るい部屋で見るより、夜暗い部屋で見る方が怖く感じるかもしれません。
豪州モナッシュ大学(Monash University)による新しい研究は、暗闇に恐怖を感じる脳のメカニズムを調査し、恐怖を司る脳の扁桃体が光によって活動を抑制されていたことを発見しました。
暗闇は単に周りが見えないから怖いのではなく、明かりの有無が恐怖に関連する脳活動に影響を与えていたのです。
研究の詳細は、6月16日付で科学雑誌『PLOS One』に掲載されています。
恐怖と不安を司る扁桃体
暗い場所を怖いと感じるのは、人としてごく当たり前の感情です。
特に子供の頃は、暗闇に強い恐怖を感じていた記憶が誰にでもあるでしょう。
こうした感情が沸き起こるのはなぜでしょうか?
オーストラリア・モナッシュ大学の研究チームは、こうした感情の背後にある脳のメカニズムを明らかにするため、明るい場所と暗闇にいるときの人の脳活動について調査を行いました。
その結果明らかになったのは、脳の扁桃体と呼ばれる器官が明るさによって活動を変化させるということでした。
扁桃体は脳内で、不安や恐怖といった原始的な感情の中枢となっている器官です。
扁桃体の活動が活発だと、私たちは不安や恐怖をより大きく感じます。
このため、うつ病や不安障害、PTSDなどの精神疾患は、扁桃体の過剰な活動に関連していると考えられています。
今回の研究では、実験参加者23人を強い光(100ルクス)または弱い光(10ルクス)に30秒間さらし、次に1ルクス未満の暗闇に30秒間さらしました。
この光と闇の環境を交互に繰り返したとき、脳活動がどのように変化するかfMRI脳スキャンによって分析したのです。
この実験の結果、強い照明は扁桃体の活動を「有意に減少」させ、逆に暗い照明では、この効果が小さいことが示されたのです。
上のグラフは30分間この実験を繰り返したときの、扁桃体の活動の平均値をグラフ化したものです。
暗闇では扁桃体の活動が大きくなっていますが、明かりがあるときは低下しています。そして、その低下の度合いは、照明の明るさによって大きく異なっているのがわかります。
今回の研究は、実験サンプルが小規模なため、ここで何が起きているかを正確に把握するためにはより多くのデータをとる必要がありますが、今回の結果はすでに報告されている精神疾患と光の関係に関連している部分があります。
うつ病や不安神経症の治療には、光線療法というものがすでに広く使用されています。
これはその名の通り、患者に光を当てることで生体リズムを整えてうつ病などを改善するというものですが、これがなんで精神疾患の治療として機能するかは、まだ完全に理解されていません。
さきほども述べたように、扁桃体の活動はいくつかの精神疾患と関連しており、強い光が扁桃体の活動を抑制するという事実は、光線療法がうつ病を改善するメカニズムを説明しています。
長い歴史の中で、私たちが光への露出を自由に制御できるようになったのはごく最近のことです。
恐怖のような原始的な感情は、未だ太陽の光と、夜の闇が世界を支配していた時代の光と闇のメカニズムに基づいて機能しているのかもしれません。
具体的に光がどのように扁桃体に作用しているかについては、まだ正確にわかっていませんが、研究はこれが眼から取り込まれた光が脳へ伝達させる「内因性光感受性網膜神経節細胞(ipRGC)」と関係している可能性を考えています。
ただ、そのためにはさらなる研究が必要でしょう。
これから夏にかけてホラー映画やホラーゲームを楽しもうという人は、明るい部屋より暗い部屋の方が、より恐怖を楽しめる可能性は高そうです。
それは単に雰囲気の問題ではなく、脳のメカニズムに関連しているのです。
参考文献
Afraid of The Dark? Blame Your Brain, Not Monsters Under The Bed(sciencealert)
元論文
Afraid of the dark: Light acutely suppresses activity in the human amygdala
提供元・ナゾロジー
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