老後の住宅選びではどのようなことに気をつければよいのだろうか。人生100年時代と言われる現代、退職後の人生は一昔前に比べますます長くなるだろう。それに伴い、老後の住宅環境は現役時代と同じぐらい重要になることが予想される。今回は老後の住宅に関して考えたい5つのポイントを紹介しよう。
3割の人が老後の住宅を変えることを考えている
実際どれくらいの人が老後のための住宅準備を検討しているのだろうか。
55歳から69歳までの690人にアンケートを取ると、15%が住替えや建替え、リフォームなどの老後の住まい変化を実施し、20%が今後住まいの改善を計画中という結果であった。合計で35%の人が老後の住まいの改善を考えていることから、今後ますます長くなる老後生活のために住環境を整えたいという人は多いと言える。(※株式会社住環境研究所「2010年『中高齢者の生活意識と老後の住まい』調査」より)
老後を快適に過ごすための住宅の3つの選択肢 住み替え、リフォーム、老人ホーム
老後を快適に過ごすために住環境を変える方法はどのようなものがあるのだろうか。それにはいくつかの選択肢があるが、今回は3つを紹介する。
(1)戸建からマンションへ住み替え
まずは、戸建からマンションへ住み替えることだ。新築で購入した家も、20年、30年と時間が経つと老朽化して住みにくくなってくるものである。また、子供が独立すると夫婦2人で住むには部屋が多すぎたりセキュリティなどの管理が大変になったりするという問題も発生する。
戸建からマンションに住み替えることによって、自分たちに適した広さ、設備の物件を選ぶことができる。また、基本的に共有部分の管理は管理会社が行うので、管理の負担も減るだろう。
(2)自宅のリフォーム
間取りや設備が古くなったり、老朽化してきたりしても、やはり長年住んだ家は住み慣れているし愛着がある人もいるだろう。そういう人は自宅のリフォームを考えよう。急な階段や段差をなくし、家をバリアフリー化したり、キッチンやトイレなどを新しくしたりして老後でも無理なく使えるようにするのもよい。
また、最近では暮らしに合わせて住まいをコンパクトにリフォームする「減築リフォーム」というリフォームがある。2階建ての一戸建てであれば平屋にしたり、マンションでは3LDKをワンルームにしたりする工事が可能だ。引っ越しをしなくても家族構成に応じた間取りに住むことができるのである。
(3)健康型有料老人ホームなど高齢者住宅へ住み替える
高齢者向け住宅と聞くと、介護や生活の支援が必要な人が入るところと思っている人もいるかもしれないが、介護不要の高齢者が自宅と同じように生活ができる高齢者向け住宅も多くある。
例えば、「健康型有料老人ホーム」と呼ばれる住宅では、家事のサポートや食事等のサービスは受けられるが、基本的に身の回りのことは自分でこなせる高齢者が対象であるため、温泉やスポーツジムなどできるだけ健康状態を長く維持するための施設が充実しているところが多い。
他にも、バリアフリーで生活相談員に安否確認サービスや生活相談サービスが受けられる「サービス付き高齢者向け住宅」や、高齢者を対象にした「シニア向け分譲マンション」などの高齢者住宅もあるので、候補に入れてみよう。
老後の住宅を5つの点で比較 それぞれのメリット・デメリット
ここまで老後の住宅の選択肢を紹介してきたが、実際にこれらの選択肢を選ぶ際にどのようなポイントで比較すればよいのだろか。今回は一戸建てかマンションか、など5つの重要ポイントで住宅を比較しそれぞれのメリット・デメリットについて見ていく。
(1)一戸建て or マンション……一戸建ては自由度が高いがメンテナンスが大変、マンションは諸費用に注意
一戸建てのメリットは、なんと言っても自由に暮らすことができる点だ。マンションでは、楽器を演奏したければ防音の物件を、ペットを飼いたければペット可のマンションを探す必要があるが、戸建であれば、限度はあるにせよ自分の理想の生活ができる。
老後の一戸建てで大変なのは設備の古さとメンテナンスである。古い物件や若い時に建てた家であれば、当時から老後のことを考えてバリアフリーにしていることは少ないだろう。段差が多いと移動が大変であるし、怪我をする可能性も高くなる。2階建て以上であれば階段の上り下りにも危険が伴うようになるし、掃除などもメンテナンスも大変だ。また、高齢者だけで住む場合、防犯面にも気を配る必要がある。
一方、マンションに住むメリットは、基本的にワンフロアで生活ができ身体的な負担が少ないことだろう。他にも戸締りが楽でセキュリティー面が安心なこと、建物の管理を自分で行う必要がないことなどがある。日常生活のしやすさで言えば、暮らしがスリム化されるマンションに分があるだろう。
ただし物音や騒音はトラブルの元になるので、同じマンション内の人間関係には十分に配慮する必要がある。また、賃貸・分譲に関わらず管理費や修繕積立金などの費用が毎月発生する。管理費は平均1万5,257 円、修繕積立金は平均で1万1,800円となっている。(※国土交通省「平成30年度マンション総合調査」より)
(2)購入 or 賃貸……購入するなら資金計画は入念に、賃貸は家探しが難航する恐れ
老後に新たに住居を購入する場合、資金をどうやって捻出するのかが一番のポイントになる。主な方法方法としては、以下の通りだ。
- 今まで住んでいた住居を売却する
- 退職金や預貯金から資金を出す
住宅ローンを組む
老後に住宅ローンを組むのは難しいと考えられるため、多くの人は今までの住居を売却、もしくは老後資金から捻出する方法になるだろう。ただし、老後資金のほとんどを住宅購入のために充ててしまっては今後の生活は成り立たない。生活資金や突然の病気や介護にかかる資金などは余裕を持って準備しておきたい。
一方、賃貸であればまとまった資金は必要ない。基本的にかかるのは毎月の家賃と共益費、光熱費等だけで資金計画は立てやすい。しかし高齢になってからの賃貸物件選びは、若い頃に比べ制約も多い。そもそも高齢者が借りることに難色を示す大家がいることに加え、以下のような条件で探さなければならない。
- バリアフリーになっているか
- エレベーターはあるか
- トイレやお風呂に手すりはあるか
駅や病院、スーパーから近いか
これらの条件に合う物件の中から、老後に受け取る年金やこれまで貯めてきた貯金を考慮して、無理なく支払える家賃の住居を探すことになるだろう。
(3)新築 or 中古……新築は設備はよいが高額、中古は安いが修繕費も考慮すべき
購入を考える場合、新築にするか中古にするかを決める必要がある。新築住宅の場合、すでにバリアフリーやシステムキッチンなど行き届いた設備を備えているところが多い。マンションであれば新しい分、修繕管理費は安く設定されているだろう。しかし、一番のネックは購入価格が高いことだ。
その点、中古住宅は新築住宅に比べ価格が安い。老後の住まいとして一般的なのはこちらだろう。最近ではバリアフリー化のリフォームをされた後で売られている物件も増えており、設備という点では新築と遜色ないものも多い。ただし、設備は綺麗であっても建物自体は古いので、入居してすぐに修繕費がかかったり、さらなるリフォームが必要になったりする可能性もある。同じ理由から、マンションの場合でも修繕管理費は高めに設定されている。
(4)都市部 or 郊外……都市なら徒歩でも生活可能、郊外なら交通手段の確保を
都市部で住むメリットは、買い物ができる施設や病院などが近く、生活するのに労力がかからない点だ。札幌市、仙台市、神戸市、北九州市などはコンパクトシティを政策として公式に取り入れており、施設や住居を都心部に集中させ、歩いて行ける距離にまとめている。
一方、特にずっと都市部で生活していた人にとっては郊外や地方でののんびりとした生活に憧れを持つ人もいるだろう。郊外では都心部に比べ住宅費を安く抑えられるのもメリットの1つだ。ただバスや自家用車など病院やスーパーに行ける交通手段は確保しておきたい。
(5)家族と近くに住む or 離れて住む……近くに住めれば双方にとって安心
自分の子供との距離も大切なポイントの1つだ。子供の世帯は現役で働いている年代なので、住む地域が仕事の都合に左右されるのは仕方がないことである。生まれ育った土地で暮らしたいという強いこだわりがなければ、退職を機に、自分たちが子供世帯の近くに住み替えるというのも1つの方法である。
近くに住むことによって、病院に行きたい時や体力的に大変な買い物の時など子に頼ることができるし、話したい時に気軽に連絡を取ることで孤独を感じにくいという点も大きなメリットである。また子供に健康面を把握してもらいやすく、突然怪我や病気になった時にも安心感がある。
子供世帯にとっても、最近では共働きが増えているので、孫の世話など何かと手助けが欲しいはずである。頼れる親が近くにいるというのはありがたいだろう。
老後の住宅選びのチェックポイントは? 設備、周辺環境、外出のしやすさ
では実際に住み替えるとなった場合、どのような点を意識して内覧を行えばよいのだろうか。老後のための住宅を見学する際のポイントを3つまとめた。
(1)バリアフリーなど老後の設備があるか
実際に老後の住宅を見学する際には、バリアフリー化はされているかは要チェックだ。トイレ・お風呂に手すりはあるか、またマンションであればエレベーターの有無など、体力が衰えることを想定して設備を確認しておこう。
(2)病院やスーパーなどが近くにあるか
建物の中身だけでなく、周辺の環境も大切である。特に高齢になればなるほど日常の食材を買うためのスーパーといざという時の病院への距離が重要だ。いつまでも車に乗れるとは限らないので、できれば徒歩圏内で行ける距離にあることが望ましいだろう。
(3)階段や駅までの距離など体力の面で懸念がないか
駅までの距離や、階段の有無、坂道の勾配など、出かけやすさも大切である。外出が億劫になると家に閉じこもりがちになり、ますます体力が衰える可能性もある。歳をとっても外出してみようと思えるかどうか、実際に周辺や駅までの行程を歩いてみよう。
老後の住居は今後ますます重要になる
平均寿命が伸び、定年後は余生ではなく第2の人生となった現代では、老後の住居は現役時代と同じぐらい大切になっていくはずである。今回紹介したチェックポイントを参考に、自分がどのような老後を送りたいかや老後の資金計画を考えてみよう。現役時代から老後の生活に関して情報収集やイメージを固めておけば、後悔のない住宅を選べるだろう。
文・松岡紀史(ファイナンシャル・プランナー、ライツワードFP事務所)
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