世界中に分布するアブラナ科の植物、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)。
道路やコンクリートの隙間など、どこにでも生えている一方で、誰にも注目されない雑草であることから、日本では「ペンペン草」と呼ばれます。
その反面、シロイヌナズナは、100年以上前から科学的に最もよく研究されている植物として有名です。
そんなシロイヌナズナに、これまでまったく見過ごされていた新器官が発見されました。
それはどんな器官で、なぜ今まで見つからなかったのでしょうか。
研究は、6月15日付けで科学雑誌『Development』に掲載されています。
新器官「カンチル」はなぜ見過ごされてきたのか?
シロイヌナズナは、ゲノム解析が完了した最初の植物で、遺伝子やタンパク質の働きが植物界で一番よく知られています。
世代交代がとても早く、約50日で種まき〜結実を終えるため、あらゆる実験のモデル植物として最適です。
これまでにも、ISS(国際宇宙ステーション)への輸送や月面での栽培計画に使用されてきました。
そのシロイヌナズナの新器官を発見したのは、米・ペンシルベニア州立大学(Pennsylvania State University)の植物学者、ティモシー・グーキン氏です。
グーキン氏は「最初にその器官に気づいたのは2008年のことでした」と話します。
新器官は「カンチル(cantil)」と呼ばれ、他の器官に隠れているわけでも、小さくて見えないわけでもありません。
下のシロイヌナズナをご覧ください。
一般に、シロイヌナズナの花は、中心軸の太い主茎から斜め上方向に生え出した花茎(花をつける茎)の先端に咲きます。
ところが、中央のシロイヌナズナの主茎に、地面と水平方向にまっすぐ伸びた花茎(ちょうど真ん中辺り)があるのが分かるでしょうか。
これが「カンチル(cantil)」です。
分かりやすく示したのがこちら。
これだけハッキリしていれば気づきそうなものですが、実はカンチルは稀なケースにのみ生じる器官で、普通のシロイヌナズナには見られません。
グーキン氏は当初、「カンチルは遺伝子汚染の産物であり、水や土壌、肥料、あるいは都市部の汚れた空気により生じるに違いない」と考えていたそう。
ところが、12年かけて3782本のシロイヌナズナ、計2万本以上の花茎を調べた結果、カンチルは、環境汚染や遺伝子変異ではなく、日照時間が短くなって開花が延期した場合にのみ生じることが判明したのです。
その後、グーキン氏と研究チームは、野生下のシロイヌナズナでもカンチルを確認したことから、これを短日による自然現象とみなしました。
他方で、グーキン氏は「突然変異によってカンチルが形成されやすくなったり、形成されにくくなったりすることがないとは言い切れない」と言います。
カンチルが生じる詳しいメカニズムはまだ完全に解明されておらず、今後も継続的な研究が必要です。
グーキン氏は「カンチルは、顕花植物の構造の異なるタイプ間において、高度に抑制された祖先のつながりを表しているのかもしれない」と述べています。
参考文献
Scientists Have Studied This Plant For Over 100 Years. They Just Found a New Part
A widely studied lab plant has revealed a previously unknown organ
元論文
Cantil: a previously unreported organ in wild-type Arabidopsis regulated by FT, ERECTA and heterotrimeric G proteins
提供元・ナゾロジー
【関連記事】
・ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
・人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
・深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
・「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
・人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功