新型コロナウイルス対策のため、さまざまな場所で透明なアクリルパーティションを見かけるようになりました。
しかし、直進する飛沫を弾くだけのため、その効果はあまり高くありません。
そこでアメリカ・ノースウェスタン大学(Northwestern University)材料科学工学部に所属するジャシン・フアン氏ら研究チームが、空気中の飛沫を除去できる新しい透明コーティング剤を開発しました。
コーティングされた表面は飛沫を弾かずに吸収するため、これまでよりも効果的に感染防止できます。
研究の詳細は、6月16日付の科学誌『Chem』に掲載されました。
飛沫を吸収する新しいコーティング剤
飛沫はウイルスの感染経路となります。
そのため飛沫を防ぐアクリルパーティションが利用されてきました。
しかし、この材料では飛沫自体を除去できません。
アクリルの表面で弾くだけなので、跳ね返った飛沫は空気中に残留してしまうのです。
そこで研究チームは飛沫を吸収する新しい透明コーティング剤を開発しました。
このコーティングの主成分は、ヘアーコンディショナーや化粧品に利用されてきた高分子電解質(英訳:polyelectrolyte)です。
粘性のある液体で、プラスチックやガラス、木材、金属、コンクリート、さらには衣類などの表面に塗ることが可能。
そしてコーティングされた表面に飛沫が衝突すると、飛沫は吸着・吸収されて乾燥します。
従来の材料のように弾いて空気中に押し戻すことがないのです。
飛沫を捕捉して空間からウイルスを減らす
研究の結果、コーティングされていない表面と比べて3倍もの飛沫を捕捉すると分かっています。
当然、捕捉された飛沫には病原体が含まれていますが、時間とともに不活性化されるとのこと。
つまり、飛沫に含まれるウイルスを捕らえて除去できるのです。
動画では、前半の「コーティングなし」と後半の「コーティングあり」が比較されており、コーティング剤の飛沫吸収能力が実証されていますね。
また素材に対して事前に消毒成分を含ませたり、定期的に洗浄したりすることで、より清潔な状態を保てます。
さらに、コーティングされた表面は水滴が付着しても、汚れずに透明度を維持すると判明。
これによりコーティングされたパーティションは、従来品よりも頻繁に洗浄する必要がありません。
このように新しいコーティング剤は幅広い可能性を秘めています。
フアン氏によると、「壁やカーテンなどに適用すれば、その空間から飛沫を除去できるかもしれない」とのこと。
感染対策は今後もしばらく必要なので、他の予防措置と並行して、新コーティング剤も普及するといいですね。
参考文献
New material could remove respiratory droplets from air
元論文
Droplet-capturing coatings on environmental surfaces based on cosmetic ingredients
提供元・ナゾロジー
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