寝る前に音楽を聴くことで気持ちをリラックスさせている人も多いでしょう。
ところが、米ベイラー大学(Baylor University)の最新研究により、就寝前の音楽鑑賞が睡眠の質を低下させるという実験結果が示されました。
原因は、頭の中で曲の一部が強迫的に反復される「イヤーワーム(earworm)」にあるようです。
研究は、6月9日付けで『Psychological Science』に掲載されています。
寝る前の音楽習慣は「イヤーワーム」を起こしやすい
研究主任で神経科学・睡眠学者のマイケル・スカリン氏は、「就寝時に頭の中で曲が自動再生されて目が覚める」という自身の経験から、音楽が睡眠パターンに与える影響について調査を開始しました。
スカリン氏が焦点を当てたのは、音楽が頭にこびりついて離れない現象を指す「イヤーワーム」です。
イヤーワームは普通、覚醒時に起こるもので、睡眠との関係はあまり検討されてきませんでした。
しかし、スカリン氏は、脳が眠りに入ろうとする時にもイヤーワームは起こりうると考えました。
「脳は、実際に音楽が流れていなくても、覚醒時と睡眠時を含めて、音楽を処理し続けています。
音楽を聴くと気持ちが落ち着くことが誰もが納得するところ。思春期や若年層では、就寝前に音楽を聴くことは日常茶飯事です。
しかし、音楽を聴けば聴くほど、睡眠時にイヤーワームの生じる可能性が高くなります。
そうなると、脳の雑音で目が覚めてしまい、睡眠の質が低下するのです」と指摘します。
3つの人気曲で実験 本研究では、アンケート調査と室内実験を行いました。
アンケート調査では、209名(平均35.9歳)の被験者を対象に、普段の睡眠の質・就寝前に音楽を聴く習慣・イヤーワームの頻度などに答えてもらっています。
一方、室内実験では、50人(平均21.2歳)の被験者を対象に、イヤーワームを誘発して睡眠の質がどう変化するかを調べました。
実験に使用した曲は、
・テイラー・スウィフトの『Shake It Off』
・カーリー・レイ・ジェプセンの『Call Me Maybe』
・ジャーニーの『Don’t Stop Believin』
です。
被験者には就寝前に、これらの曲のオリジナルバージョンか、歌詞を削除したインストゥルメンタルバージョンのどちらかをランダムに視聴してもらいます。
実験後、被験者は、イヤーワームの有無や、いつどのように生じたか回答。
また、睡眠中に「睡眠ポリグラフ検査」を用いて、被験者の睡眠中の脳波、心拍数、呼吸などを記録しています
アンケートと実験データを分析した結果、寝る前に音楽を聴く習慣のある人では、睡眠時にイヤーワームが起きる頻度が高いことが判明しました。
また、週に1回以上、イヤーワームを経験している人は、イヤーワームが起きない人に比べて、睡眠の質の低下リスクが約6倍高いことが示されています。
睡眠時のイヤーワームが特に多い人は、寝つきが悪くて、目を覚ます頻度も多く、浅い眠りの時間帯が長くなっていました。
そして意外なことに、歌詞のある音楽よりも、インストゥルメンタル音楽の方が、イヤーワームの発生頻度が2倍多く、睡眠を乱す可能性が高かったのです。
睡眠時にイヤーワームを発生させない方法 以上の結果から、スカリン氏は「就寝前に音楽をよく聴く人ほど、睡眠時に持続的なイヤーワームを起こしやすく、睡眠の質も低下しやすい」と結論しました。
これは、音楽には睡眠を助ける催眠作用があるという考え方に反するものです。
医療機関では、就寝前に静かな音楽を聴くことを推奨していますが、これは患者の自己申告から得られたデータであり、効果の個人差も大きいでしょう。
スカリン氏は「普段からイヤーワームを経験している人は、就寝前の音楽視聴を控えるか、回数や時間を減らした方がいい」と話します。
また、イヤーワームを発生させないもう一つの方法は「認知活動を行うことだ」とスカリン氏は言います。
特に効果的なのが、就寝前に5〜10分ほどToDoリストを書いて、頭の中の考えを紙に書き出すことです。
そうすることで、脳の思考スイッチをオフにし、よりスムーズな入眠につくことができます。
こうした結果には個人差がつきものなので、音楽が効果的な人も多いでしょう。
ただし、夜中によく目が覚めることがあれば、その原因は寝る前の音楽視聴かもしれません。
参考文献
Music listening near bedtime disruptive to sleep, study finds
提供元・ナゾロジー
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