南太平洋に浮かぶソシエテ諸島(Society Islands)にはかつて、60種を超えるカタツムリが生息していました。
ところが1970年代に、ある事情から外来の肉食カタツムリを持ち込んだことで大半が全滅。
そのわずかな生き残りの中に、シロポリネシアマイマイ(Partula hyalina)という種がいます。
「1円玉ほどしかない本種がなぜ生き残れたのか」、専門家にとって長年の謎となっていました。
しかし今回、ミシガン大学(University of Michigan)の最新研究により、ついにその謎が解明されたのです。
その方法は、カタツムリたちに世界最小のコンピュータを背負わせることでした。
この奇抜な調査法は、何を明らかにしてくれたのでしょうか。
研究は、6月15日付けで『Communications Biology』に掲載されています。
なぜ肉食カタツムリを持ち込んだのか?
50年ほど前、タヒチを含むソシエテ諸島に、食用として栽培するためアフリカマイマイが持ち込まれました。
しかし、これが予想以上に繁殖し、島の生態系を乱してしまったのです。
そこで1974年に、今度はアフリカマイマイの個体数を減らす目的で、肉食性のロージー・ウルフ・スネイル(Euglandina rosea)を導入。
これが島固有のカタツムリの悪夢の始まりでした。
高いハント能力を持つロージー・ウルフ・スネイルは、またたく間に拡散し、ソシエテ諸島に分布する61種のカタツムリを食い散らし、壊滅させたのです。
残ったのは、シロポリネシアマイマイを入れて、わずか5種となりました。
その中でも特に小さくてか弱いシロポリネシアマイマイが生き残っているのは不思議でした。
本種の大きな特徴は、真珠のように真っ白な殻を持っていることです。
シロポリネシアマイマイの殻は、地元民にとって文化的に重要であり、その独特の色からレイやジュエリーに使用されています。
研究チームは「この白い殻が、ロージー・ウルフ・スネイルにとっては致命的となる太陽光を反射しているのではないか」と考えました。
そして、この仮説を検証するには、両種が1日に受ける光量を調べる必要があったのです。
そこで利用されたのが、世界最小のコンピュータでした。
生き残りの秘訣は「太陽光」
世界最小のコンピューター「Michigan Micro Mote(M3)」は、2014年に同大学の電気工学・コンピュターサイエンス科のチームによって開発されました。
サイズは2.2 × 4.8 × 2.4mmで、カタツムリの殻に載せられるほどの小ささです。
M3には、極小の太陽電池を用いてバッテリーを充電するシステムがあります。
研究チームは、この充電速度を指標にすることで、光量を測定できることに気づきました。
その後、地元ミシガンのカタツムリでの実用テストを経て、2017年にソシエテ諸島で実験を開始。
比較的大きなロージー・ウルフ・スネイルには、殻に直接M3を貼り付けましたが、シロポリネシアマイマイは保護種であるため、直接は貼り付けられません。
シロポリネシアマイマイは夜行性で、日中は葉の下にくっついているため、チームはその葉の表と裏にM3を設置しました。
1日の終わりに、両種に設置したM3から無線で受光量のデータをダウンロードしました。
その結果、シロポリネシアマイマイは、正午の時間帯において、ロージー・ウルフ・スネイルよりも平均して10倍以上の太陽光を浴びていたのです。
これは殻が黒くて、日光を吸収してしまうロージー・ウルフ・スネイルでは耐え切れません。
また研究チームは「本種が夜間になってからシロポリネシアマイマイを捕食しに行かないのは、日が昇る前に自分たちの生息場所へと戻れないからではないか」と考えています。
シロポリネシアマイマイは、受光量の多い森の端に暮らしており、やはり白い殻は日光の反射に役立っていると思われます。
光の射す場所にいられることが、彼らの生き残りの秘密だったようです。
参考文献
Solving a Mass Extinction Survivor Mystery With Help From Snails Carrying the World’s Smallest Computer
元論文
Millimeter-sized smart sensors reveal that a solar refuge protects tree snail Partula hyalina from extirpation
提供元・ナゾロジー
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