捨てたのは数学だけだったのに、脳力も失っていたようです。
オックスフォード大学の実験心理学部門の研究者たちによる研究によれば、16歳で数学を「捨てる」選択をした学生は、重要な脳内物質GABA(γアミノ酪酸)の濃度が減少していたとのこと。
GABAはタンパク質を構成しないアミノ酸の一種であり、高等動物においては神経伝達物質として機能し、脳機能の改善や最適化に重要な役割を果たします。
研究内容は6月15日に『PNAS』に掲載予定です。
高校で数学を「捨てる」と重要な脳内物質量が減少すると判明!
英国では、学生は16歳になると数学を学ばないという選択が可能になります。
英国では大学入学にあたって必要な科目を3つに絞ることが可能であり、文系を目指す場合、ある時点で数学を完全に「捨てる」ことができるんです。
一方、近年の実験心理学の進歩により、特定の学習行動が脳機能に様々な影響を与えることが明らかになってきました。
最も著しい例としては、多国籍語の会話スキルがある人は、認知症にかかりにくいとする研究結果です。
そこで今回、オックスフォード大学の実験心理学部門の研究者たちは、思春期における数学の学習が脳に与える生物学的な変化を調べることにしました。
実験にあたっては14歳から18歳の133人の学生たちの数学学習の有無を調べると同時に、脳の特定領域(中前頭回)における神経伝達物質「GABA(γアミノ酪酸)」の濃度を測定しました。
GABAは高等動物において脳機能の改善や最適化において重要な物質として知られており、日本でもサプリメントとして広く販売されています。
研究者たちが数学とGABAの関係を調べたところ、驚きの事実が判明します。
16歳で数学を「捨てる」判断をした英国の学生たちは、推論・問題解決・記憶など多くの重要な認知機能がかかわる脳領域(中前頭回)でGABAの濃度が有意に低下していることが判明したからです。
また研究者たちは、中前頭回におけるGABAの濃度だけを判断基準にして、学生が16歳で数学を捨てたかどうかを判断できることを示しました。
さらに脳内(中前頭回)のGABA濃度を測定することにより、19か月後の数学の成績を予測することにも成功しました。
加えてGABAの脳内濃度は、数学を「捨てる」以前は変化がなかったことも判明。
これらの事実は、数学という特定の学習内容の有る無しが、個人の脳内物質の濃度に決定的な違いを産んでいたことを示します。
数学以外ではGABA濃度に変化がなかった
今回の研究により、数学の学習が脳に生物学的・神経学的な変化を与えることが示されました。
興味深い点は、物理や化学、生物といった他の理系科目の有る無しではGABA濃度の変化が起こらなかったことがあげられます。
物理や化学、生物においても論理的な思考が求められますが、数学の代替にはなりえませんでした。
研究者たちは今後、数学以外に中前頭回におけるGABA濃度の増加をもたらす学習内容を探り、数学が本当に脳にとって特別な刺激なのかを確かめていくとのこと。
数学に匹敵するGABA濃度の上昇をもたらしてくれる学習内容が存在すれば、有益な脳の強化手段となるでしょう。
参考文献
Lack of math education negatively affects adolescent brain and cognitive development
元論文
The impact of a lack of mathematical education on brain development and future attainment
提供元・ナゾロジー
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