新型コロナウイルスは依然として猛威を振るっており、より効果的な感染症対策が求められています。
近畿大学薬学総合研究所に所属する角谷 晃司教授ら研究チームは、静電気の特性を利用し、ウイルスなどの病原体を水に捕捉する装置を開発しました。
これにより世界で初めて、飛沫で空中に浮遊するウイルスを効果的に回収・殺菌することに成功。
研究の詳細は、5月6日付の学術誌『International Journal of Environmental Research and Public Health』に掲載されました。
世界初!飛沫で浮遊するウイルスを回収・殺菌
研究チームは空気中の小さな物質を閉じ込めるために、電荷によって形成される「静電場」に注目。
これまでにカビの胞子や、花粉、煙、昆虫などを捕捉できる「静電場スクリーン」を開発してきました。
そして今回新しく開発された装置では、さらに小さな物質である「飛沫で浮遊するウイルス」をキャッチすることに成功。
ウイルスは装置内の水に回収された後、オゾンを添加することで99%以上殺菌することもできました。
実験には新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に構造が類似した「バクテリオファージφ6」が使用され、実際に回収できたとのこと。
新しい装置は、新型コロナウイルスにも適用できると考えられます。
「飛沫を帯電させてウイルスごと回収する装置」の開発に成功!
開発された装置は、「水の入った容器」と「複数の釘が固定されたプレート」から成り立っています。
最初に電圧発生器により釘側にマイナスの電圧を与えます。
そうすると釘の先端から放電現象が起こり、下に設置している容器内の水がプラスに帯電。
これにより、装置内では釘から水に向かってマイナスイオンを含むイオン風が発生します。
このイオン風に飛沫が接触すると、飛沫はマイナスに帯電。
そして「マイナス飛沫」はプラスに帯電している水に引き寄せられ、回収されるという仕組みになっています。
研究では本物の飛沫を想定して、「バクテリオファージ溶液」のミストを装置に噴射。
その結果、-8kV以上の電圧をかけた場合、ウイルスを含むミストを十分に捕捉できると判明しました。
このように飛沫で浮遊するウイルスの効率的な回収に成功したのは、世界で初めてです。
開発されたウイルス捕捉装置は、その性質上、バクテリオファージ以外にもさまざまな病原体への適用が期待できます。
新型コロナウイルスだけでなく、肺炎、インフルエンザ、おたふくかぜ、百日咳などにも効果的かもしれません。
将来的には「除菌機能をもつ空気清浄機」や「ウイルス量のモニタリング」への応用につながっていくでしょう。
参考文献
世界初!飛沫で浮遊するウイルスを水に回収、殺菌に成功 除菌機能をもつ空気清浄機やウイルス量モニタリングへの応用に期待
元論文
A Simple Electrostatic Precipitator for Trapping Virus Particles Spread via Droplet Transmission
提供元・ナゾロジー
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