メカゴキブリに命を救われる日が来るかもしれません。
6月4日に『arXiv』に改訂版が掲載された論文によれば、制御回路を搭載したゴキブリを遠隔操作する新たな方法を開発したとのこと。
制御回路には赤外線カメラも搭載されており、地震で倒壊した建物など、危険な場所での人命救助に活躍できると期待されています。
しかし研究者たちは、いったいどんな方法で、ゴキブリの動きを操作したのでしょうか?
昆虫サイズのロボットを作る代わりに昆虫をロボットにする
現在、地震で倒壊した建物や原子力発電所の事故現場など、人間が入り込めない場所で多くのロボットが活動しています。
ですが最先端のロボットであっても、移動能力の柔軟性は動物には及びません。
特に昆虫サイズの小型ロボットの分野では差が大きく、人類は未だに昆虫に匹敵するロボットをうみだせてはいません。
そこで今回、シンガポールの南洋理工大学の研究者たちは発想の転換を行い、昆虫サイズのロボットを作るのではなく、昆虫をロボットにすることにしました。
昆虫をベースにして制御機能を追加することで、動物の柔軟な運動性能と環境適応力をロボットの性能として取り込むことが可能となります。
ゴキブリの誘導精度は94%を達成
改造の対象となったのはマダガスカルの森林に生息するゴキブリの一種(Gromphadorhina portentosa)です。
研究者たちは、この普段は落ち葉などの植物を食べて過ごしている温和なゴキブリの背中に、通信アンテナと赤外線カメラ、そして電気刺激装置を搭載した装置を載せました。
電気刺激装置はゴキブリの後方に存在する「しっぽ」のように突き出た2本の尾毛と腹部の中央部分の左右に埋め込まれた電極(計4本)とつながっています。
ゴキブリの尾毛は触覚のように物体を感知する働きがあり、ゴキブリは刺激された尾毛とは反対の方向に方向転換する習性があります。
研究者たちは今回、この尾毛への刺激を電気的に行うことで、ゴキブリの遠隔操作を試みました。
結果、見事にゴキブリの動きを制御することに成功します。
研究者たちの予想通り、ゴキブリは左の尾毛を刺激されると右に曲がり、右の尾毛を刺激されると左に曲がりました。
さらに、上の図のような実戦的な環境を用意して遠隔操作を行ったところ、94%の精度で目標地点への誘導を成功させます。
また赤外線カメラのみを用いて「ゴキブリ視点」で操作を行った場合も、87%の精度で誘導に成功します。
ゴキブリがヒトの命を救う未来
今回の研究により、ゴキブリの遠隔制御を、脳などの中枢神経への刺激なしに実行可能であることが示されました。
研究者たちは、コンピューターと昆虫のハイブリッドロボが、災害時などの生存者捜索において非常に有用だと考えています。
将来的には制御回路に位置追跡装置(GPSなど)を組み込み、多数個体を同時に運用すると同時に、AIなどの画像識別能力を活用して、生存者の発見を自動的に知らせる仕組みを作っていくとのこと。
未来の災害現場では、メカゴキブリが大量に運用され、人命救助の主役になっているかもしれませんね。
参考文献
Scientists Create Cyborg Cockroach Camera for Search and Rescue
元論文
Insect-Computer Hybrid System for Autonomous Search and Rescue Mission
提供元・ナゾロジー
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