生き物の中で、階級の区別があり、仕事や生殖の役割分担がされている集団を「真社会性(eusocial)」と呼びます。
真社会性の種は少なく、昆虫ではハチやアリが有名で、哺乳類はハダカデバネズミのみ。植物ではいまだ確認されていません。
ところが今回、ニュージーランド・ヴィクトリア大学ウェリントン校(Victoria University of Wellington)の研究により、植物で初となる真社会性の存在が示唆されました。
研究は、5月14日付けで『Ecology』に掲載されています。
真社会性を持つ初の植物か?
研究主任のケビン・バーンズ氏は、オーストラリアとニュージーランドに挟まれたロード・ハウ島での調査時に、ある植物に目が留まりました。
それは「プラティセリウム・ビフルカツム(Platycerium bifurcatum)」といって、ビカクシダ属(Platycerium)に分類されるシダ植物の一種です。
アフリカやマダガスカル、アジア、太平洋諸島、オーストラリア、南アメリカの熱帯などで18種が知られています。
中でも本種は、別種の樹木の上部に生える着生植物でもあり、数百の個体が群れで集まって巨大な塊を作ります。
また、2タイプの葉を持っており、1つは株元を覆うように張り付いた茶色の「外套葉(nest)」で、もう1つはシカの角のように先端が二又に分かれた緑色の「胞子葉(strap)」です。
バーンズ氏はこれらを「逆さの傘(upside-down umbrella)」に例えており、無数に生えでた胞子葉が水を受けて、中央に向かって流し込み、外套葉がその流れてきた水を吸収します。
こうした資源を共同で蓄えたり、役割分担がされている様子から、バーンズ氏は「アリやハチと同じ相互依存社会(真社会性)を形成しているのではないか」と考えました。
そこで氏と研究チームは、本島のP .ビフルカツムを対象に、真社会性的な特徴が見られるかを調査。
最初に本種の生殖能力を調べたところ、ひとつのコロニーの約40%が繁殖できておらず、それは主に内側の外套葉に見られました。
このことから、外套葉と胞子葉の間で「生殖の分業」がなされていると考えられます。
これは真社会性生物に見られる大きな特徴です。
また、葉の吸水性を調べたところ、外套葉は胞子葉より多く吸水できることが確認されています。
コロニー全体には根のネットワークが張り巡らされており、外套葉は胞子葉まで水を送っていました。
ここから、先の貯水作業と合わせて、「水循環の分業」もされていることが分かります。
さらに、ロード・ハウ島にある10のコロニーの遺伝子サンプルを分析した結果、8つのコロニーは遺伝的に同一の個体から成っていました。
コロニー内の高い遺伝的同一性は、真社会性のハチやアリによく見られる特徴です。
以上を踏まえ、研究チームは「P .ビフルカツムが真社会性の条件の多くを満たしている」と結論します。
本種が真社会性を発達させた理由について、バーンズ氏は「地面から遠く離れたストレスフルな樹冠の中では、コロニー内で役割分担をすることが、水分や栄養の安定的な確保に効果的だったからではないか」と考えています。
研究チームは今後、本種が真社会性を進化させた過程や原因について調査を続ける予定です。
参考文献
These ferns may be the first plants known to share work like ants
A popular household fern may be the first known eusocial plant
元論文
Primitive eusociality in a land plant?
提供元・ナゾロジー
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