ココアはプログラミングや創作などむずかしい仕事の生産性をブーストするかもしれません。

11月24日に『Scientific Reports』に掲載された論文によれば、ココアには脳の酸素取り込み量を増やし、高い認知能力を要する問題の解決能力を向上させるとのこと。

これまでココアが認知能力に恩恵を与えるとの研究結果は以前にも報告されていましたが、多くはココアの摂取量と認知テストの成績との相関関係を示すだけで、具体的に脳で何が起きているかはわかっていませんでした。

しかし今回の研究では一歩踏み込んで「より科学的な」証拠を示すことに成功したようです。

ココアを摂取した脳の中では、いったい何が起きているのでしょうか?

目次

  1. ココア効果の正体は謎が多かった
  2. ココアは脳に酸素を供給する
  3. ココアによる酸素供給は手ごわい相手に出会ってから
  4. ココアの摂取は2時間前から

ココア効果の正体は謎が多かった

ココアは「むずかしい」仕事の生産性を上げるという研究
(画像=ダークチョコレートには一般に100~650mgのフレバノールが含まれている / Credit:depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

チョコやココアに含まれるココアフラバノールは、古代から様々な健康上の問題を解決する万能薬として民間(南アメリカ)で用いられてきました。

また近年の研究では、ココアフラバノールは健康な成人の認知機能を増進させ、脳卒中や認知症の予防に働くことが示されています。

しかし、脳に対するココアフラバノールの具体的な影響を示す証拠はほとんど得られていませんでした。

そこでイリノイ大学の研究者たちは、18歳から40歳までの健康な成人を募集し、ココアフラバノールの摂取が脳に与える影響を2つの尺度で計測しました。

1つ目の尺度は脳の血中酸素濃度、そしてもう1つは既存の方法と同じく、認知テストの成績を元にしたものです。

ただ今回の認知テストでは工夫が行われ、簡単な作業効率の測定の他に、高い認知機能を求められる高難易度の課題が加えられました。

ココアは脳に酸素を供給する

ココアは「むずかしい」仕事の生産性を上げるという研究
(画像=ココアフレバノールは脳の酸素化を助ける / Credit:Scientific Reports、『ナゾロジー』より引用)

脳の酸素濃度を測定するにあたり、参加者はまず5%の二酸化炭素を含む空気を吸い込むように求められました。

5%の濃度は大気中の二酸化炭素濃度(0.04%)の100倍以上であり、この濃度の二酸化炭素を吸い込むと人体は危機を感じ、より酸素を多く取り込む「酸素化」という防衛機能が働きはじめます。

今回の研究では、ココアフラバノールの摂取の有無と、脳における酸素化の速度が注目されました。

結果、上の図のように、前頭葉における高濃度のココアフラバノール(680ミリグラム)を多く摂取した参加者の酸素化は、摂取量が低かった(4ミリグラム)参加者に比べて3倍以上高く、酸素化に要する速度も1分ほど速くなっていました。

前頭葉の酸素濃度は認知能力と密接にかかわることが知られていおり、これまでココアフラバノールに対して報告されてきた数々の認知機能の改善が、酸素濃度の増加によるものであることを示唆します。

しかしより興味深い結果は、認知テストから得られました。

ココアによる酸素供給は手ごわい相手に出会ってから

ココアは「むずかしい」仕事の生産性を上げるという研究
(画像=ココア効果は難しい問題に直面した時に真価を発揮する / Credit:Scientific Reports、『ナゾロジー』より引用)

研究者たちが認知テストの成績を分析した結果、ココアフラバノールの摂取は単純な課題に対しては変化がなかった一方で、高難易度の課題には優位な差をうみだし、解決速度が「11%」ほど上昇していたことが判明します。

また近年の研究により、難易度の高い課題は、より多くの酸素を脳で消費させることが示されています。

そのため研究鎖者たちは、ココアフラバノールの恩恵は、難易度の高い課題に直面した脳に多くの酸素を送り届けることで、はじめて発揮される(有意差がでる)と結論しました。

ココアの摂取は2時間前から

ココアは「むずかしい」仕事の生産性を上げるという研究
(画像=ココアの摂取から血液の酸素化には2時間ほどの時間がかかる / Credit:Scientific Reports、『ナゾロジー』より引用)

今回の研究で、ココアフラバノールの脳機能に対する役割が明らかになりました。

ココアフラバノールは高難易度の課題に直面し、瞬間的に酸欠に陥った脳に対して酸素を送り込むことで、認知機能を改善していたのです。

ただ、今回の研究ではココアフレバノールの摂取が成績に全く影響しない人もいました。

研究者がこれら「影響なし」の人の脳内の酸素を調べた結果、影響なしの人はココアフレバノールがない状態でも、十分に前頭葉に酸素が供給されていることが明らかになったとのこと。

どうやら生まれつき酸素供給能力に恵まれた人にとって、ココアから得られる恩恵は限られているようです。

しかし喫煙者や高齢者など、潜在的に酸素運搬能力が低下している人間にとっては、認知機能の改善に効果を発揮すると考えられます。

研究者たちは、植物由来のフラバノールを含む食事戦略をとることで、将来的により多くの人間の認知機能の底上げにつながると予測しました。

もし自分の脳への酸素供給量に自信がなかったら、高濃度のココア(カカオパウダー)を含むチョコやサプリを試してみるのもいいかもしれません。

ただしその場合、課題に取り組む2時間前にココアを摂取する必要があるので要注意です。

ココアフラバノールが脳への効果を発揮するには2時間ほどを要することが、研究により示されています。

文・ライター:川勝康弘 編集者:やまがしゅんいち/提供元・ナゾロジー

参考文献
neurosciencenews

【関連記事】
ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功