テントウムシは、硬い脚裏をしているにもかかわらず、ツルツルしたガラス上を滑らずに歩くことができます。

これまでに主張されている接着原理の仮説は、

・脚の剛毛と接地面との「分子間力」

・脚の分泌液による「表面張力」

の2つです。

1980年以来、どちらが正しいのか研究され続けてきましたが、今だに答えが出ていません。

しかし今回、物質・材料研究機構、東京大学、キール大学(ドイツ)の調査により、ついに長年の論争に終止符が打たれました。

テントウムシの脚は「分子間力」をメインに接着していたようです。

目次

  1. 「分泌液の厚み」の測定に初成功!
  2. テントウムシの接着原理は「分子間力」と判明

「分泌液の厚み」の測定に初成功!

こちらは、ガラス板上のテントウムシと、脚裏に生えた剛毛の先端の形を写したものです。

剛毛の形には、尖形や円盤形(オスのみ)、披針形やヘラ形があります。

テントウムシの脚の「接着原理」を解明!40年の論争にピリオド
(画像=テントウムシの脚裏に生えた剛毛の形 / Credit: 物質・材料研究機構、『ナゾロジー』より引用)

ガラスへの接着原理は、先述したように、剛毛による「分子間力」と分泌液による「表面張力」が考えられます。

しかし、これまで分泌液の量は測定されておらず、どちらが接着の主因になっているのか判断がつきませんでした。

そこで研究チームは今回、脚裏とガラス板の間にある「分泌液層の厚み」を初めて測定しました。

まず、ガラス板の表面を直径10〜20ナノメートルの金パラジウム(AuPd)粒子で覆い、そこにテントウムシが脚を置いた状態で分泌液を瞬時に凍結します。

それから、テントウムシの脚を除いた表面を顕微鏡で観察し、AuPd粒子が分泌液中にどれだけ埋もれているかを見ました。

その結果、分泌液層からAuPd粒子が飛び出している様子が確認され(下図a)、層の厚みは10〜20ナノメートル以下であることが判明しています。

テントウムシの脚の「接着原理」を解明!40年の論争にピリオド
(画像=(a)凍結させた分泌液層、(b)AuPd粒子の高さ測定、(c)分泌液層の厚さ分布 / Credit: 物質・材料研究機構、『ナゾロジー』より引用)

研究チームによると、これは「長距離での分子間力が作用する範囲である」とのことです。

分子間力は普通、数ナノメートルほどの短距離で働きますが、高分子の場合には十数ナノメートルの長距離でも作用します。

これで分子間力が有力となりましたが、そこで次に、分子間力が主要な接着原理であることを確かめるための実験を行いました。

テントウムシの接着原理は「分子間力」と判明

研究チームは、材料科学の手法を生物学に応用して、さまざまな板上を歩くテントウムシの「牽引力」を測定しました。

牽引力が増すほど、接着力が大きく滑りにくくなるため、牽引力をもとに接着力が評価できます。

また接着原因の判定には、材料科学の「接着仕事WA」という概念を導入しました。

接着仕事WAは、接着部分を引き剥がすために必要なエネルギーのことで、基板の材質で変化します。

チームによると、「もし分子間力が主要な力であれば、接着力は接着仕事WAと相関する」とのことです。

実験の結果、テントウムシの接着力は、接着仕事WAと見事に相関しており、主要な接着原理が「分子間力」であることが証明されました。

テントウムシの脚の「接着原理」を解明!40年の論争にピリオド
(画像=テントウムシの牽引力測定 / Credit: 物質・材料研究機構、『ナゾロジー』より引用)

また、分子間力の中でも分散性成分がメインであることも明らかになりました。

これはテントウムシが、ワックスで覆われた植物の葉っぱのように、分散性の高い成分を含む表面により強固に接着するよう脚を進化させたことを示します。

本研究は今後、テントウムシのように接地面への接着・剥離をすばやく行えるロボットの脚部へ応用する予定です。

将来的には、人が入ったり、登ったりできないような場所にも適応する災害対策ロボットが開発されるかもしれません。

文・ライター:大石航樹 編集者:やまがしゅんいち/提供元・ナゾロジー

参考文献
テントウムシ脚裏の接着原理を解明(物質・材料研究機構)

元論文
Evidence for intermolecular forces involved in ladybird beetle tarsal setae adhesion

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