最近日本でも、コロナ禍で休業中していた水族館のチンアナゴが人間を忘れかけていることが話題になりました。しかし人間が来ずに問題が起きているのは、どうやら日本の水族館だけではないようです。
オーストラリア・クイーンズランド州にある「ケアンズ水族館」は、地元でも人気の施設。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、3月半ばから営業を停止しています。そのため、水族館の中はがらがら。
そんな中、館内の魚たちが次々と「うつ症状」を示し始めているというのです。彼らは人が来なくなった寂しさのあまり、ふさぎ込んでしまったのだとか。
中には水槽の隅にうずくまったり、スネて餌を食べなくなったりする魚もいるとのこと。
その解決策としてケアンズ水族館は、とてもユニークな方法を実践しました。
魚にも「ハート」はある
水族館のスタッフは、「魚たちは目に見えて無気力になり、自分たちの行動や身の周りの環境に興味を示さなくなりました」と話します。
ある魚は水槽の暗い隅に隠れたまま動かなくなったり、またある魚は数週間も餌を食べなくなりました。
スタッフ兼、海洋生物学者のポール・バーンズ氏は「ガラス越しに見てくれる人がいなくなったことが原因」と指摘します。
「多くの人は、水槽の中の魚たちが、ガラスの外や通り行く人を見ているとは思っていません。しかし実際は、人をよく観察して、その反応を楽しんでいるのです」と続けます。
魚は好奇心旺盛な生き物で、新しい物や場所があると泳ぎまわって観察し始めます。それは水槽の中でも外でも同じことです。
「人が水槽の前を通るだけでも、魚にとっては良い刺激となります。彼らは人の顔を見たり、着ている服の色の違いを楽しんでいるのです」とバーンズ氏は言います。
一緒に泳いでくれるダイバーを雇用
そこでケアンズ水族館は、魚たちのうつ症状を緩和するため、一緒に泳いでくれるダイバーを雇いました。
現時点で3人のダイバーがおり、人との接触が増えたことで、魚たちの良い刺激となっているようです。
館長のダニエル・ライプニク氏は「中には子犬のようにダイバーに抱っこされたがったり、足にすり寄って遊んでもらいたがる魚もいる」と話します。
米・トロイ大学の海洋生物学者ジュリアン・ピットマン氏は「魚が感情的に敏感なのは、人と神経反応が似ているから」と指摘します。
一般的に、人の不安感情やうつ症状は、落ち込んだ時に生じるセロトニンとドーパミンの変動が原因です。実はこれと同じメカニズムが、魚にも存在すると言われています。
そのため、犬や猫のように直接触れ合えなくても、声をかけたり、見てあげることは非常に意味があるのです。
ケアンズ水族館は、7〜9月を目処に営業再開する予定ですが、心待ちにしているのは魚たちの方かもしれませんね。
reference: abc.net
提供元・ナゾロジー
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