「背後から近づく敵の気配を察知する」「暗闇でも周囲を把握する」など、視覚に頼らない空間把握技術を習得したいですか?
新しい研究によると、これは漫画や映画、私たちの妄想だけには留まりません。だれもが習得可能かもしれないのです。
イギリス・ダラム大学(Durham University)心理学部に所属するロア・ターラー氏ら研究チームは、訓練を受けた視覚障がい者たちが反響定位(またはエコーロケーション)によって空間を把握できると明らかにしました。
また実験では、目が見える健常者でもエコーロケーションの技術を習得できると分かっています。
研究の詳細は、6月2日付の科学誌『PLoS One』に掲載されました。
音の反響で空間を把握する「エコーロケーション」
エコーロケーションは、動物が音や超音波を発し、その反響で物体との距離や大きさ、方向などを把握する技術です。
この技術は一般的にコウモリやクジラなどが行うことで知られています。
以前の研究では、一部の視覚障がい者が舌打ちや杖で地面をたたく行為により、エコーロケーションを行っていると示唆されていました。
そこで研究チームは、人々がどのようにエコーロケーションを習得するのか研究することにしました。
実験には、14人の目が見える健常者とエコーロケーション経験のない12人の視覚障がい者が参加。
また参加者たちの年齢(21~79歳)や性別はさまざまであり、10週間のトレーニングプログラムで、それらの要因が技術習得にどのような影響を与えるか調査しました。
彼らはエコーロケーション専門家のもと、舌打ちによるエコーロケーション技術を学び、室内や野外で空間を把握する訓練を受けたとのこと。
エコーロケーションはだれもが習得可能だった!?
訓練の結果、健常者と視覚障がい者の両方が、すべての測定値においてパフォーマンスを向上させました。
そして研究チームにとって意外なことでしたが、一部のケースでは目の見える人の方が、見えない人よりも高い成績を収めたとのこと。
ただし、もっと重要なこととして、「学習率やエコーロケーション能力には、年齢や視覚障がいの有無が大きな影響を与えない」という結果が出ました。
つまり、どんな人でも訓練次第でエコーロケーションを習得できるのです。
さらに訓練後3カ月間の追跡調査では、視覚障がい者の参加者全員が日常生活で移動しやすくなったと報告し、そのうち83%は自立性と幸福感の向上も報告しています。
現在、舌打ちを用いたエコーロケーションは、視覚障がい者の移動訓練、リハビリテーション課程に含まれていませんが、そうすることのメリットは非常に大きいと分かります。
またターラー氏は、「将来、視力を失うと予想される人々に、エコーロケーションに関する情報と訓練を提供するのは理にかなっている」と述べました。
今回の研究により、エコーロケーション技術の学習や訓練が普及していくかもしれません。
どんな人でも学習できるので、「視覚に頼らない空間把握技術」を習得したいと思う人は多いでしょう。
今後の社会の進展に期待したいですね。
参考文献
Can echolocation help those with vision loss?
元論文
Human click-based echolocation: Effects of blindness and age, and real-life implications in a 10-week training program
提供元・ナゾロジー
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