歯は骨と同様に人間の中でも特に硬い組織です。

しかし歯には、骨に無い「1度だけ生え変わる」という特殊な性質があります。

また乳児は生まれた時点で既にほとんどの骨を持っていますが、歯は生後3~9か月でようやく生え始めます。

永久歯に限っては、生まれて6年ほど経ってからようやく生え変わるのではないでしょうか。

つまりある程度成長した人間の「柔らかい内部から、硬い組織が生み出されている」のです。

今回は特殊な器官である歯が作り出されるタイミングや仕組みを解説します!

目次

  1. 乳歯を作る幹細胞は母体の中の段階で働いていた?
  2. 乳歯と同じプロセスを5年以上重ねて強化したのが永久歯
  3. 永久歯を生み出した幹細胞は自滅していた

乳歯を作る幹細胞は母体の中の段階で働いていた?

最初に乳歯がどのようにして作られるのか考えてみましょう。

受精卵となってから3週間が経つと、平らで小さな円盤型の細胞に成長します。

なぜヒトの歯は一度生え変わるのか?
(画像=受精卵が成長すると幹細胞に囲まれたチューブを形成する / Credit:It’s Okay To Be Smart、『ナゾロジー』より引用)

この円盤から形成されたチューブは重要な幹細胞に囲まれており、それぞれが脊髄や脳、中耳の骨、心臓、歯などを作ります。

そして約6~8週間で、これら幹細胞の小さなグループが歯茎の下にこぶを形成し、変容を遂げていくのです。

そのうちのあるものは象牙芽細胞(ぞうげがさいぼう)となり、歯の主体を成す硬組織「象牙質(ぞうげしつ)」を形成していきます。

なぜヒトの歯は一度生え変わるのか?
(画像=幹細胞がエナメル芽細胞を作り出す / Credit:It’s Okay To Be Smart、『ナゾロジー』より引用)

また別の細胞はエナメル芽細胞(英: ameloblasts)になります。これは歯の外側の硬い層「エナメル質」を作る細胞です。

エナメル芽細胞は化学物質の混合物を分泌し、それを固めて結晶を作ります。

なぜヒトの歯は一度生え変わるのか?
(画像=エナメル質芽細胞は上方に移動しつつ、結晶を形成 / Credit:It’s Okay To Be Smart、『ナゾロジー』より引用)

その後、上方に移動し、再度同じ工程を実行。これを繰り返すことにより、エナメル芽細胞は長い結晶棒を形成し最終的には死にます。

なぜヒトの歯は一度生え変わるのか?
(画像=何百万本もの結晶棒によって歯のエナメル質層が形成される / Credit:It’s Okay To Be Smart、『ナゾロジー』より引用)

そして何百万本もの結晶棒が歯のエナメル質層を構成。

乳歯のエナメル質加工がすべて完了することで、乳歯が歯茎から顔を出すようになります。

つまり生後3ヵ月ほどで発見できる乳歯は、実は他の重要な器官と同じように胎児の段階で作られていたのです。

乳歯と同じプロセスを5年以上重ねて強化したのが永久歯

続いて、永久歯がどのようにして生まれるか考えてみましょう。

歯茎の中から乳歯が抜け出すと、元の空間が空っぽになります。

そしてこの時点で乳歯を生み出した幹細胞はまだ生きています。

なぜヒトの歯は一度生え変わるのか?
(画像=乳歯が生え隙間ができると、永久歯を作り始める / Credit:It’s Okay To Be Smart、『ナゾロジー』より引用)

そのため、幹細胞は新たな歯つまり永久歯を乳歯と同じプロセスで作り始めるのです。

つまり幹細胞は基本的に同じプロセスを繰り返しているだけであり、乳歯が生え始めたころには既に永久歯が作られています。

しかし、永久歯と乳歯には大きな違いもあります。その1つが硬度です。

乳歯は生後すばやく生えるという利点をもっていますが、その分、象牙質とエナメル質の厚みが永久歯の半分ほどしかありません。そのため、栄養価の高い固形食を効率的に摂取するためには不利なのです。

そこで硬く頑丈な永久歯が必要になります。

永久歯は分厚く大きいため、その生成には5年以上の年月が必要ですが、ケアを欠かさなければ一生使用できます。

なぜヒトの歯は一度生え変わるのか?
(画像=乳歯は強力な永久歯が完成するまでの代役だった / Credit:Depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

当然、胎児の段階でいきなり永久歯を作ろうとするなら期間が足らず、少なくとも5歳まで歯がない状態で過ごさなければいけないでしょう。

また、顎の大きさも成長しきっていないので、すべての永久歯を幼児の時からそろえることは不可能です。

つまり、そもそも人間は幹細胞が歯生成プロセスを繰り返すことを前提として乳歯を保持しており、その乳歯は頑丈な歯を生成する間の一時的な代役だったのです。

永久歯を生み出した幹細胞は自滅していた

さて、永久歯が成長していくにつれて乳歯の歯根も溶けていき、乳歯本体が抜け落ちます。そしてその後すぐに永久歯が生えてくるのです。

永久歯が生えた後のサイクルはどうなるでしょうか?それぞれの細胞の役割を考えると、前回と同じように永久歯の下で、また新しい歯が5年以上かけて作られそうなものです。

なぜヒトの歯は一度生え変わるのか?
(画像=永久歯をつくると幹細胞は自滅する / Credit:It’s Okay To Be Smart、『ナゾロジー』より引用)

しかし実際はそうなりません。不思議なことに、永久歯が生えると歯を作り出す幹細胞が自滅してしまうのです。

科学者たちはこの自滅の原理を完全には解明できていません。

もし解明できるなら、サメのように新しい歯をどんどん生み出すことも可能になるかもしれませんね。

以上が「歯が作られる仕組みとタイミング」の解説になります。

簡単に表現するなら、「歯の生成は、胎児が脳を持つ前から幹細胞によって始まっており、その働きは永久歯を生み出すまで続く」と言えるでしょう。

現段階では人間が新しい歯を生み出すことはできません。ですからこの神秘的で貴重な歯を是非大切にしてくださいね。

【編集注 2020.12.09 15:00】
タイトルを一部修正して再送しております。


参考文献

It’s Okay To Be Smart

, SciShow


提供元・ナゾロジー

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