冬は、フグが旬の季節。
しかし、高級食材の上に中毒性もあるので、気軽には食べられません。
今でもフグ毒による死亡事故は年間数件ほど出ています。にも関わらず日本人がフグを食べ続けるのはなぜでしょうか?
フグの生態と、日本人を魅了し続ける理由について解説していきます!
フグは泳ぎベタだから針を持った?
フグ(学名:Tetraodontidae)は、フグ目のフグ科に属する魚の総称で、200種以上が知られています。
ちなみに、よく似たハリセンボンは、フグ目のハリセンボン科の総称で、フグとはまた別物です。
フグは、口内に4本の大きな歯がくっついており、これを使いエサをすりつぶして食べます。
学名のTetraodontidaeは、この「4本(Tetra)+歯(odont)」が語源です。
フグは、からだを膨らませて針を出しますが、これは泳ぎヘタだから必要になったとされます。
フグは泳ぐとき、尾や胸、背中、肛門付近に生えたすべてのヒレを組み合わせないと動けません。
方向転換は自在なのですが、スピードが遅いのでターゲットにされやすくなります。
そこで身の危険を感じると、逃げるのではなく、弾力のある胃に大量の水や空気を入れて膨らませて、体内に隠した針を出すのです。
フグは自分で毒をつくれない
それから、フグのもうひとつの武器は「毒」です。
ほとんどの種類は「テトロドトキシン」という有毒物質を持っており、捕食者にとって致命的となります。
実は、このテトロドトキシンは、フグ自体がつくり出すものではありません。
フグは、有毒なプランクトンや海洋細菌、貝類、ヒトデなどを食べることで、その毒成分を体内にため込んで自分のものにしているのです。
毒素はおもに卵巣、精巣、肝臓、腸、皮膚にあり、細心の注意で調理しないと、肉に広がってしまいます。
致死量が2〜3mgほどで、毒性の強さは青酸カリの500~1000倍以上に達します。
テトロドトキシンは神経性の毒で、神経の適切な機能を壊して筋肉のコントロールを失わせ、窒息や心不全を引き起こします。
今のところ、フグ毒の有効な解毒剤はありません。助かるには、体内から毒素が排出されるのを待つしかないのです。
ちなみに、フグ中毒者の最も古い記録は、キャプテン・クック(1728〜1779)であり、1774年の太平洋航海中にフグの肝を食べて倒れたと伝えられます。
なぜ日本人は「フグ」を愛するのか?
現在、日本人ほど「フグ」を愛する国民はいません。
実は、日本ではフグ食が公的に禁止された時代があります。
それは1592年のこと、朝鮮出兵の際に兵士たちがフグを食べたことが死亡者が続出し、豊臣秀吉がフグ食禁止令を出したのです。禁止期間はなんと300年近くも続きました。
それでも、町民たちの間ではひそかにフグが食べられていたそうです。江戸時代には、一種の度胸試しとして広まり、「毒を制するものは強くなる」と考えられました。
その後、明治に入って、フグを食べた伊藤博文がその美味しさに感動し、解禁しています。
それと同時に、フグ中毒による死者も急増しました。1886年から1963年の間に、約6400件のフグ中毒が発生し、そのうちの59%が死亡しています。
意識の高まりや規制の強化、調理技術の発達によって、死者は大幅に減りましたが、今でも年間30件、約50人のフグ中毒者が出ており、数人が命を落としています。
外国の方は「日本人はなぜあんなキラーフィッシュを食べるのか」と不思議に思っているそう。
淡白な美味しさが日本人の舌にマッチするのかもしれません。
これから「フグ」のシーズンに入りますが、どうかお気をつけください。
参考文献
scienceabc
提供元・ナゾロジー
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