大きな原因がないにもかかわらず下痢や便秘が続く「過敏性腸症候群」に悩まされている人は多いようです。
そして、その症状は「男性が下痢」「女性は便秘」であることが多く、その違いは謎でした。
ところが、日本・岐阜大学応用生物科学部の志水恭武教授は、12月21日付の科学誌『The Journal of Physiology』にて、便意異常の性差が神経伝達物質の違いによって生じていると発表しました。
男性が下痢になりやすく、女性が便秘になりやすいのはなぜ?
志水教授らは以前から過敏性腸症候群の研究を行なっており、次のメカニズムが明らかになっていました。
最初、大腸に痛みの元となる刺激があると、その情報が脊髄を経由して脳に伝えられ、人は「痛み」を感じます。
そうすると脳は痛みを和らげるために、今度は脳から脊髄に痛みを抑える神経伝達物質を放出。
そしてこの神経伝達物質のうちセロトニンやドーパミン(ドパミンとも言う)が痛みを緩和すると同時に、大腸の動きを促進していたとのこと。
つまり、本来は痛みを緩和するための物質が、副次的に大腸の動きにも影響を与えていたのです。
しかし、これらの研究結果だけでは、「なぜ男性と女性の便意異常に性差があるのか?」という疑問に答えていません。
そのため志水教授らはオスとメスのラットの大腸内にカプサイシンによる痛み刺激を与えて、それぞれの神経伝達物質の作用を調査することにしました。
メスのラットはGABAの働きにより、腸内運動活性化の効果が打ち消されていた
調査の結果、神経伝達物質によって大腸運動が促進されるのは、オスのラットだけだと判明。
そしてその原因は、放出される神経伝達物質の成分の違いにありました。
オスでは前項で解説したようにドーパミンやセロトニンが放出されており、これらが大腸運動を促進します。
一方、メスではドーパミンが放出されず、セロトニンとGABAが放出されていました。
このセロトニンには大腸運動を活性化する効果があるのですが、GABAにはその効果を打ち消す作用があります。
結果としてプラスマイナスゼロとなり、メスの大腸運動は活性化されないのです。
ちなみに卵巣ホルモンによってGABAが働くため、卵巣を除外したメスのラットも、オスのラットと同様の反応になるとのこと。
この結果は、「男性には下痢が多く、女性には便秘が多い」という性差メカニズムの一端を明らかにするものとなりました。
将来的には、性別に合わせた治療薬を選択することで過敏性腸症候群に対処できるようになるでしょう。
さらには、未だ明らかになっていない原因やメカニズムの解明に繋がるかもしれませんね。
参考文献
research-er.jp
, 岐阜大学
提供元・ナゾロジー
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