南米ボリビアの熱帯雨林に、ツィマネ(Tsimane)という先住民族が暮らしています。

彼らは今なお、狩猟・採集生活を続けており、高度な科学技術や情報社会とは無縁です。

しかし、ツィマネは多くの医学専門家から「世界一健康な民族」として賞賛されています。

そして今回、国際研究チームの最新調査により、ツィマネの人々は脳の老化が非常に遅いことが判明しました。

健康に長生きする秘訣はツィマネの生活スタイルにあるようです。

研究は、6月2日付けで『Journal of Gerontology, Series A: Biological Sciences and Medical Sciences』に掲載されています。

目次

  1. 脳の萎縮率が西洋人より70%も低い

脳の萎縮率が西洋人より70%も低い

ツィマネは、高齢になってもきわめて健康な心血管を維持しています。

先行研究(The Lancet, 2017)では、医学的に知られているあらゆる民族・集団の中で、ツィマネは動脈硬化の有病率が最も低く、心血管疾患の危険因子をほとんど持たないことが示されました。

約1万6000人いるツィマネの健康の秘密は、狩猟、採集、漁業、農業といった産業革命以前の自給自足のライフスタイルに関連していると考えられています。

世界一健康な民族は「脳の老化が極端に遅い」と明らかに
(画像=ツィマネの少年は川下りもお手の物 / Credit: Tsimane Health and Life History Project Team、『ナゾロジー』より引用)

研究チームは今回、脳の萎縮・老化状態を調べるため、40〜94歳のツィマネ746人に協力してもらいました。

ツィマネの村からCTスキャン装置を備えている研究所までは、川下りと車移動を合わせて丸2日かかっています。

研究所では参加者の脳をスキャンして脳体積を算出し、年齢との関連性を調べました。

次に、同じ検査をアメリカ、ドイツ、オランダの3つの先進国からの参加者にも実施し、ツィマネと比較。

その結果、ツィマネにおける中年期と老年期の脳体積の差は、先進国の西洋人に比べて、70%も小さいことが判明したのです。

これは、高齢になってからの脳の萎縮が西洋人より極端に少ないことを示します。

老化に伴う脳の萎縮は、認知症や機能低下をまねく主原因です。

世界一健康な民族は「脳の老化が極端に遅い」と明らかに
(画像=狩猟・採集生活で医者いらず? / Credit: Tsimane Health and Life History Project Team、『ナゾロジー』より引用)

この結果について、研究主任のヒラード・カプラン氏(米・チャップマン大学)は「ツィマネの人々は心血管だけでなく、脳の健康面でも非常に優れていることが明らかになりました。

反対に、先進諸国の人々は、座りっぱなしの生活や、糖分・脂肪分の多い食習慣が、加齢による脳組織の減少を加速させ、アルツハイマー病などの病気にかかりやすくなっている」と指摘します。

ツィマネは、高度な医療を受ける機会はないものの、常に活発に動き、魚や野菜、果物など繊維質の多い食事を摂っています。

南カリフォルニア大学のアンドレイ・イリミア氏は「本研究は、先進国のライフスタイルが現代人の健康に与える潜在的な悪影響を示しました。

ツィマネのような生活習慣を取り戻すことで、脳の萎縮を大幅に遅らせることができるかもしれない」と述べています。

大切なのは医療の進歩より、生活習慣の見直しかもしれません。


参考文献

‘Amazing Natural Experiment’: In This Amazonian Tribe, Brains Don’t Age Like Ours

Amazon indigenous group’s lifestyle may hold a key to slowing aging

元論文

The indigenous South American Tsimane exhibit relatively modest decrease in brain volume with age despite high systemic inflammation


提供元・ナゾロジー

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