学力診断や大学受験などでお目にかかってきたマークシートは、男子に有利なテスト形式だったのかもしれません。
オーストラリア・メルボルン大学の経済学者、シルビア・グリセルダ氏は、同じ国際テストを受けた約50万人の男女のスコアを調査。
その結果、数学のスコアは、選択問題の割合が多いほど、男子の方が高くなり、女子は低くなるという傾向が示されました。
一体、何が原因なのでしょうか。
研究は、5月21日付けで『Melbourne Institute Research Insight』に掲載されています。
選択問題が多いほど、男女のスコア差が拡大
グリセルダ氏は、2012年と2015年に実施された国際学力テスト「PISA(OECD生徒の学習到達度調査)」のデータを分析しました。
PISAは、義務教育の終了年にあたる15歳3ヶ月〜16歳2ヶ月の生徒を対象に、数学・科学の知識、読解力、問題解決力を評価するもの。
3年ごとに実施され、一回の試験で60カ国以上、延べ50万人の生徒が参加します。
テストの難易度は同じですが、調査の結果、選択問題の割合にはランダムなばらつきが見られました。
例えば、2015年度には、全体の70%が選択問題で構成された試験を受けた生徒もいれば、選択問題が30%しかない試験を受けた生徒もいます。
グリセルダ氏は、この選択問題の割合の違いを利用して、数学のスコアの男女差にどのような影響を与えているかを分析しました。
その結果、女子生徒は選択問題のスコアが男子生徒に比べて低く、とくに選択問題の割合が60%を超えると、その傾向が顕著になっていました。
上の図を見ると、選択問題の割合が30%のとき、男女のスコア差は2%に留まっていますが、70%のときは約4%まで広がっています。
なぜこうした傾向が生じるのでしょうか。
選択肢が多いほど、女子生徒は不注意になる?
グリセルダ氏は、これと別に、各生徒が選択肢を決めるのに要した時間や、スキップした問題の数を調べ、どのように答えを導くかを分析しました。
PISAのデータでは、回答が早すぎる生徒(例えば、3秒以内に答えを出す生徒、設問を注意深く読まない生徒)を特定できます。
こうした生徒の傾向は、熟慮不足や不注意の表れと見なすことが可能です。
分析の結果、生徒が答えを出すアプローチにも、男女差が存在していました。
全体的な傾向を見ると、男子の方が回答に消極的で、選択肢を決めるのも早く、設問を飛ばすことも多かったようです。
ところが、選択問題の割合が多くなるほど、この傾向は逆転しました。
選択問題の多い試験を受けた女子生徒は、選択問題の少ない場合に比べて、熟慮不足や不注意を示すようになっていたのです。
これまでの研究(Applied Measurement in Education, 2009)でも、女子生徒は選択式の問題に興味を示さないという傾向が示されています。
また、女子生徒は、より多くの見方と多様な解答策のある問題を好み、男子生徒は、選択式のように一つの回答を決める問題を好む傾向があります。
さらに、グリセルダ氏は「自信や大胆さも選択問題のスコアに影響する」と指摘。
「例えば、自分の解答に対して自信や大胆さがあるほど、誤った選択肢を消していくスピードも速くなる」と述べています。
ただし、PISAでは自信の度合いを評価する指標はないので、断定はできません。
また、今回の結果はあくまでも全体の傾向にすぎず、選択問題が得意な女子生徒もいれば、苦手な男子生徒もいます。
それでも、性別に特有のアプローチの違いが、選択問題のスコアに影響している可能性はあるようです。
参考文献
Multiple-choice exams favor boys over girls, worsening the math gender gap
元論文
Are we testing students accurately? How multiple-choice exam questions increase the gender gap in test scores.
提供元・ナゾロジー
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