中国では、新型コロナのワクチン接種が週1億回ペースにまで加速し、5月末の累計接種回数は6億回規模に達した。変異株の世界的流行を受け、隔離期間の延長など水際対策も一段と強化され、国内居住者の新規感染者数は2月の春節以降、おおむねゼロ近傍に抑え込まれている。

感染リスクの低下に伴い、全国的に人流が活発化しており、低迷が続いていた旅行、娯楽、運輸、飲食といったサービス消費の持ち直しが鮮明だ。消費財市場も化粧品、宝飾品、携帯、自動車などの販売が堅調なほか、住宅販売や不動産開発投資も高い伸びを続けている。これまで回復が遅れていた失業率や所得も改善傾向を強めており、中国経済は回復領域を広げながら着実に景気拡大が進展している。

中国の2021年1〜3月期の実質GDP成長率は、コロナ禍でマイナス成長に落ち込んだ昨年の反動もあり、前年同期比18.3%増と大幅な伸びを示した。国際通貨基金(IMF)は、今年の中国の経済成長率が昨年の2.3%増から8.4%増まで高まると予想している。

こうしたなか、今後の景気動向を展望する上で、中国経済の「三つの変化」が注目される。一つ目は、企業業績の改善も追い風となり、民間設備投資が動き出していることだ。新5カ年計画が始動した今年、地方政府が次々とハイテク産業集積プロジェクトを立ち上げており、半導体事業等への投資が活発化している。環境政策の強化に伴うグリーン投資も広がりを見せており、設備投資の回復が本格化しつつある。

二つ目は、インフレ懸念の台頭だ。景気回復の進展と外需の好調さを背景に、鉄、非鉄金属、化学品、石油加工品といった生産財価格の上昇が加速している。消費者物価指数も上昇基調に転じており、川上のコスト上昇が消費財価格に及ぼす影響について当面注視する必要がある。

三つ目は、景気回復の裏で金融引き締め姿勢が強まっていることだ。資金需要が高まる中で、通貨供給量の一つであるM2や、社会融資残高(実体経済へのマネー供給量を示す中国独自の指標)の伸びが予想以上に速いペースで引き下げられている(図表)。これらは昨年大幅に緩和されたが、金融当局は民間レバレッジ(債務比率)の圧縮を今年の重要課題としており、住宅価格や消費者物価の上昇圧力の高まりを受け、量的な金融引き締めを一段と進めている。

こうした政策調整により、前期比ベースの経済成長率は、昨年後半の3%増から今年1〜3月期は0.6%増にまでペースダウンしている。ただ、過度な金融引き締めは、民間設備投資の回復に水を差しかねないほか、中小企業の資金調達にも目詰まりを起こしかねない。年後半のマクロ政策運営は、ダウン・アップ双方のリスクに配慮したきめ細かなかじ取りが求められる。

インフレリスク台頭で困難さを増す中国の政策運営
(画像=『きんざいOnline』より引用)

文・岡三証券 チーフエコノミスト(中国) / 後藤 好美
提供元・きんざいOnline

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