重度のマルチタスクへの従事は、記憶力と注意力を破壊するようです。
10月28日に『Nature』に掲載された論文によれば、重度のマルチタスクに従事していると、脳に負の変化が生じ、記憶力と注意力が大きく失われるという衝撃的な結果が示されました。
どうやらマルチタスクは脳の健康にとって、思った以上に悪影響があるようです。
いったいどうしてなのでしょうか?
マルチタスクに潜むリスクを瞳孔と脳波で測定する
テレビを見ながらネットの動画を同時に流し見しつつ、好きな音楽を聴き、別PCで会社の同僚にメールを送り、さらに同時に耳と肩で携帯電話を挟んで友達と楽しく会話をする…。
マルチタスクを極めた人ならば、いくつもの作業を並行して進められ、仕事しながら遊び、遊びながら仕事が可能かもしれません。
しかし、今回の研究結果は、そのような重度のマルチタスクに従事する人間は、重い代償を支払わなければならないことが判明しました。
研究者たちは18歳から26歳の80人の参加者に対して画面に映る画像を記憶してもらうテストを行うと同時に、参加者の瞳孔の大きさと脳波を測定しました。
瞳孔の大きさと脳波は、物事に対して注意が向けられ記憶が行われる最中に大きく変化することが知られています。
与えられた課題に対して参加者が十分な注意と記憶力を働かせているとき、目はより情報を積極的に取り込もうと瞳孔を広げ、脳波はリラックスモードから覚醒モードへと移行します。
逆に、瞳孔の収縮とリラックスモードの脳波であるアルファ波が発せられている時、人間は課題に対して注意力散漫になり、反応速度の低下が起こることが知られていました。
またテストに前後して、参加者には日頃の業務におけるマルチタスクの強度について答えてもらいました。
もし日頃のマルチタスクが記憶力や注意力に影響を与えなければ、実験結果にはマルチタスクの有無にかかわらず優位な差は生まれないはずです。
日頃からの重度のマルチタスクは瞳から力を奪い朦朧とさせる
研究者たちがテストの成績に加えて瞳孔の大きさと脳波を分析した結果、重度のマルチタスクに従事している人間は、記憶力と注意力が大幅に損なわれていることが判明したのです。
重度のマルチタスクに従事している人間は記憶しなければならない画像が現れても、瞳孔が収縮したままであり、脳波は反応速度の低下を示すアルファ波が後頭部から発生していました。
またこれらの傾向は、課題を覚えようとしているときだけでなく、記憶内容を思い出しているときにもみられました。
この事実は、重度のマルチタスク従事者は、覚える時も思い出すときも、注意力が途中で失効してしまい、記憶することも記憶したものを検索することもできなくなっていることを意味します。
また日頃のマルチタスクが重ければ重いほど、より障害が色濃く表れる傾向があることにが判明しました。
極度のマルチタスク従事者では、注意力の失効が記憶の形成と維持にとって、破壊的なレベルにまで進行していたのです。
マルチタスクからの卒業
今回の研究により、重度のマルチタスクが極めて深刻な記憶力と注意力の喪失につながることが示されました。
記憶を形成・出力するときには、注意力を持続させる必要がありましたが、マルチタスクはそれを奪っていたようです。
一方で、テレビをみながら、ちょっとした隙に仕上がっていたメールを送るといった、軽いマルチタスクでは、障害はみられませんでした。
この事実は、人間の脳は軽度なマルチタスクならば、後に尾を引くような影響がないことを意味します。
また幸い、重度のマルチタスクに陥ってしまった人も、記憶力と注意力の変化は後戻りができないものではないようです。
マルチタスクを削減できれば、記憶力も注意力も元に戻る可能性があります。
個人差はあるものの、もし娯楽を目的とした不必要なマルチタスクに陥っているなら、これを機にライフスタイルを見直すのもいいかもしれませんね。
参考文献
sciencetimes
提供元・ナゾロジー
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