健康のためには運動しろという解説は非常に多く目にします。
しかし、「そんなことわかってるけどできないんだよ!」という人も多いでしょう。
何かもっと手軽な代替行為はないのでしょうか?
英国コントベリー大学の研究チームは、そんな不摂生な人にぴったりの都合の良い研究成果を発表してくれています。
その研究によると、お風呂でお湯に浸かる行為は、ランニングなどと同じくらいの健康上の利点を提供してくれるというのです。
この研究の詳細は、科学雑誌『Journal of Applied Physiology』で発表されています。
走るのが嫌い? だったらお風呂に入ればいいじゃない!
運動が最良の薬に例えられることもありますが、薬とはきちんと規則正しく服用してこと意味のあるものです。
気の向いたときにだけ利用してたいのでは、薬は効果を発揮できません。
そして多くの人にとって、運動は時間とモチベーションの不足によって、規則正しく服用することが非常に困難な薬です。
また、体の自由がきかなくなった高齢者や、慢性疾患のある人にとっても、運動は制限されてしまい効果的に実行できません。
結果的に、現代の人々の半数近くは座りがちな生活を続けてしまっています。
英国では座りがちの生活が、10人に1人の死亡に関連していると考えられています。
座りがちな生活の問題点としてあげられるのが、血流の悪化です。
運動は、血流を改善させる効果がありますが、これは運動以外でも実現させる方法があります。
それがお風呂です。
コントベリー大学の研究グループは、参加者にサイクリングを行ってもらった場合と、同じ時間を温水浴槽で過ごしてもらった場合の比較を行いました。
すると、運動はエネルギー消費量では優れていましたが、体温や心拍数の上昇については、同程度であることがわかりました。
また、動脈の超音波スキャンでは、血流の増加も同程度であることが明らかとなりました。
さらに、研究者たちは、温熱療法が行き渡っている国として、フィンランドと日本を対象とした調査も実施しました。
日本の温泉 フィンランドのサウナ
日本はいわずと知れた温泉の国で、多くの人々が利用しています。
フィンランドは、湿度5~20%程度、温度70~110℃というドライサウナが人気の国で、人口550万人に対してサウナは300万近くあるといわれています。
こうした国々の、長期観察研究の調査結果を見ると、中年のフィンランド男性では、週4~7回サウナを利用する人は、週1回しか利用しない人と比較して、なんと血管疾患のリスクが50%も低いという結果が出ました。
またこれは認知症などのリスク低減とも有意に関連していたといいます。
温泉は古代ローマ人も好んでいましたが、日本の温泉では38℃~40℃の熱湯に、最大60分程度肩まで浸かるという傾向があり、やはり心血管における病気のリスクは、入力頻度が高いほど低下しています。
これは長期観察の結果であるため、食事などの傾向も関連している可能性はありますが、定期的な温熱療法は心血管疾患のリスクを低下させる大きな要因として考えることができます。
温泉などの温熱療法が有効であるとされる根拠は、1つに上昇した体温の調節にあります。
体温が上昇した場合、体は熱を外部へ逃がすために皮膚の血流を増加させます。これは動脈と毛細血管の血管拡張を起こします。
このとき超音波スキャンを行うと、この血流の上昇は、細胞の成長や修復、また血管を保護する血液中のさまざまな分子生成も促進していたことがわかりました。
また、温浴はサウナと違い水圧による影響も加わります。これも心臓への血液循環を助ける働きがあります。
そのためサウナより、温泉のほうがより有利に働く可能性が指摘されていますが、これはまだ証明されていません。
1990年代の調査では、温泉もサウナも、1日1回、週5回の利用を4週間続けたところ、慢性心不全患者の心肺機能や心臓壁が強化されていたという報告があります。
さらに3週間、毎日温泉療法を続けた結果、2型糖尿病患者の血糖値を下げたという研究報告もあります。
高血糖の糖尿病は、血液に深刻な損傷を与える可能性が高いため、これは重要な報告です。
温熱療法の素晴らしい効果とフォローできない問題
熱いお湯に長時間浸かる行為は、かなり健康の改善に有効で、特に心血管疾患におけるリスクを大きく下げることがわかりました。
ただ、これは家庭用のお風呂で同様に効果が得られるのか? というと少し難しいかもしれません。
ここまでの調査は温泉や、また水温がきちんと管理された実験室の環境で行われています。
しかし、家庭用のお風呂では浸かっていると浴槽の水温は徐々に下がっていきます。
またあまりに長時間の入浴は、個人で行うにはかえって危険な場合もあります。特に脱水症状や湯あたりなどの症状は、健康を逆に害してしまうため注意する必要があります。
熱いお湯に使ってゆっくりと体温をあげ、維持していくという方法は、健康上の利点は多いですが、水分補給や無理はしないなどきちんとルールを作って実行するのが懸命でしょう。
もちろん運動と温熱療法を組み合わせるというのも、さらに有効な効果を生むとされています。
なんにせよ、お風呂にゆったりと浸かることは健康上の利点が多く、また抗うつ作用もあるとされているので大切だと考えられます。
最近は、テレワークなどで座りっぱなし、外出もしないので入浴も不規則にしかしないという人は増えているかもしれません。
都内に住む人の場合、お風呂が狭いユニットバスでシャワーしか浴びないなんて人もいるかもしれませんが、きちんと毎日お湯に浸かるというのは運動をするのと同じくらい健康には大切なようです。
運動が毎日できないという人は、せめて毎日お風呂に浸かるところからでも始めて見るといいかもしれません。
ただし、もちろん入浴では、血流の改善は見込めても、脂肪の減少、筋肉量や骨密度の増強を期待することはできません。
痩せたいとか、筋肉をつけたいという人は、入浴では解決しないので諦めましょう。
参考文献
Can’t face running? Have a hot bath or a sauna – research shows they offer some similar benefits(the conversation)
元論文
The health benefits of passive heating and aerobic exercise: To what extent do the mechanisms overlap?
提供元・ナゾロジー
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