科学技術が進歩すれば、人間はいつまでも生きられるのでしょうか?

最新の研究によると、人間の最大寿命は120~150歳であり、この限界ラインを超えるのは難しいようです。

シンガポールのバイオテクノロジー企業「Gero」に所属するティモシー・ピルコフ氏ら研究チームは血液・DNA・ライフスタイルに関する大量のサンプルデータから、最大寿命を決定づける要素「回復力」を導きだしました。

研究の詳細は、5月25日付けの科学誌『Nature Communications』に掲載されています。

目次

  1. 人間の寿命を決定する2つの要素
  2. 人間の回復力は確実に低下する
  3. 死の根本原因である「回復力の進行性喪失」に介入できるのか?

人間の寿命を決定する2つの要素

人間の寿命は「150歳」が限界だったと明らかに
(画像=研究により、回復力の重要性が明らかに / Credit:Depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

研究には、イギリスの長期大規模バイオバンク研究「UKB」(被験者数471,473、年齢範囲39~73)と、アメリカの国民健康栄養調査「NHANES」(被験者数72,925、年齢範囲1~85)のデータセットが用いられました。

そしてこれらを人工知能システムで分析し、人間の寿命に関与する2つの重要な要素を発見しました。

1つ目は、ストレスやライフスタイル、病気に関連する「生物学的年齢」。

この要因は従来の理解と一致しています。

ストレスをなくし健康的な生活を送ると、人間の寿命は延びるのです。

そして今回のポイントになるのが、2つ目の要素である「回復力」です。

これは、1つ目の要素の生物学的年齢がどれだけ早く正常に戻るかを示すものです。

人間の回復力は確実に低下する

研究は、健康な被験者は非常に高い回復力をもっており、回復力の低下が慢性疾患や死亡リスクの上昇に関連していることを示唆しています。

またストレスを受けた後、元の状態に回復する速度は、加齢とともに低下すると判明。

つまり、回復に必要な時間がどんどん長くなるのです。

実際、40歳の健康な成人では、約2週間だった回復時間が、80歳の集団では平均して6週間まで延長していました。

さらにポルコフ氏は次のように述べています。

「この傾向が年齢を重ねても維持されるなら、120~150歳ごろには身体の回復力が完全に失われることになります」

人間の寿命は「150歳」が限界だったと明らかに
(画像=加齢に伴う「回復力の低下」概略図 / Credit: GERO PTE. LTD.、『ナゾロジー』より引用)

この結果は、人類の平均寿命が着実に延びているにもかかわらず、最大寿命がほとんど更新されない理由を説明するかもしれません。

平均寿命は、より多くの人が死亡リスクを軽減させることで延長します。

回復力の低下とともに死亡リスクは高くなりますが、その低下分を医療、健康的なライフスタイルの向上でカバーできるのです。

しかし、根本の回復力がゼロになってしまえば、どんなカバーも意味がありません。

そのため最大寿命は、回復力の限界に依存した120~150歳だと考えられるのです。

死の根本原因である「回復力の進行性喪失」に介入できるのか?

人間の寿命は「150歳」が限界だったと明らかに
(画像=回復力に焦点を当てれば、最大寿命を延ばすことも可能かもしれない / Credit:Depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

アメリカ・ロズウェルパークがん研究所に所属するアンドレイ・グドコフ博士は、「この研究は、加齢による回復力の低下と、回復力の低下に続く“死の執行官”としての加齢性疾患の役割を明確にし、分離した点で画期的だと言えます」と述べました。

人間の最大寿命を延ばすには、死の根本原因である「回復力の進行性喪失」に立ち向かう必要があります。

Gero社のCEOピーター・フェディチェフ氏によると、現在、「回復力低下への介入を禁止する自然法則は見いだされていない」とのこと。

つまり、今回の研究で提示された回復力における老化モデルに焦点を当てるなら、いつか現状を打破する強力な延命療法が開発されるかもしれないというのです。

果たして科学技術が老化と寿命に打ち勝つときは来るのでしょうか。科学者たちの研究は今後も続くようです。


参考文献

Gero scientists found a way to break the limit of human longevity

元論文

Longitudinal analysis of blood markers reveals progressive loss of resilience and predicts human lifespan limit


提供元・ナゾロジー

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