日本の北陸地方は「フェーン現象」発生地域として世界的に有名です。

フェーン現象については、中学校や高校で学んだことがあるでしょう。

ところが、筑波大学計算科学研究センターに所属する日下 博幸教授ら研究チームは、日本のフェーン現象が通説とは異なるメカニズムで発生していたと発表。

教科書で説明されてきたメカニズムとは異なる結果が明らかになったのです。

研究の詳細は、5月6日付けの科学誌『International Journal of Climatology』に掲載され

目次

  1. フェーン現象のメカニズムとは?
  2. 日本のフェーン現象のほとんどは力学メカニズムだった

フェーン現象のメカニズムとは?

フェーン現象とは、風が山を越える際に暖かくて乾燥した下降気流となり、ふもとの気温が上昇する現象のことです。

このフェーン現象の発生メカニズムは、「熱力学メカニズム」と「力学メカニズム」の2つに分けられます。

熱力学メカニズムでは、平野の水蒸気を含んだ風が山を乗り越える際に、気温の低下とともに雲を発生させ、最終的に雨を降らせます。

これにより山を下る気流は乾燥し、ふもとに高温をもたらすのです。

フェーン現象は通説と異なるメカニズムで生じていることが判明
(画像=フェー減少の(左)力学メカニズム, (右)熱力学メカニズムを示すイラスト。教科書にも採用されているのは右側。 / Credit:筑波大学、『ナゾロジー』より引用)

対して力学メカニズムでは、山を越える際に雲と雨が発生しません。

もともと上空にある乾いた空気が山を越えた後、平野に下ることでフェーン現象が起こるのです。

そしてこれまで、日本のフェーン現象は熱力学メカニズムで発生していると考えられてきました。

教科書のフェーン現象の図には雨雲が描かれており、熱力学メカニズムの解説が掲載されていたはずです。

ところが今回、研究チームはこの通説を覆す研究結果を発表しました。

日本のフェーン現象のほとんどは力学メカニズムだった

フェーン現象は通説と異なるメカニズムで生じていることが判明
(画像=富山平野に到達した空気塊の移動経路。(左)力学メカニズムの例, (右)熱力学メカニズムの例 / Credit:筑波大学、『ナゾロジー』より引用)

研究チームは、フェーン現象多発地域である北陸地方の富山平野を対象に、過去15年間に生じた198のフェーン現象を分析しました。

分析には筑波大学のスーパーコンピュータCOMA等が用いられ、フェーン現象を引き起こす風の経路、降水の有無、空気塊の移動速度などが解析されたとのこと。

これにより、198のフェーン現象の発生メカニズムがひとつひとつ明らかにされました。

フェーン現象は通説と異なるメカニズムで生じていることが判明
(画像=(左)力学メカニズム。日本のフェーン現象の約80%を占める, (中央と右)熱力学メカニズムとマルチメカニズム。フェーン現象の約20%にあたる。そのうちのほとんどがマルチメカニズム / Credit:筑波大学、『ナゾロジー』より引用)

分析の結果、フェーン現象の約80%は力学メカニズムによって発生していたと判明。

では、残りの20%が熱力学メカニズムだったのでしょうか?

実はそうでもありませんでした。

残りの20%は、一見熱力学メカニズムに見えるものの、実際には力学メカニズムと熱力学メカニズムの両方が組み合わさった「マルチメカニズム」だったのです。

つまり、これまで通説だった純粋な熱力学メカニズムは、日本ではほとんど起こっていなかったのです。

さらにフェーン現象は、これまで低気圧や台風接近時に発生するものと考えられていましたが、解析対象のうち約20%は高気圧下で発生していたと判明。

これらの結果は、これまで日本の教科書に掲載されてきた解説と異なります。まさに通説を覆す大きな発見なのです。

今後研究チームは、フェーン現象が夜間に多発する原因など、未解明な部分に関して研究を進めていく予定です。

文・ライター:大倉康弘 編集者:KAIN/提供元・ナゾロジー

参考文献
フェーン現象は通説と異なるメカニズムで生じていることを解明

元論文
Japan’s south foehn on the Toyama Plain: Dynamical or thermodynamical mechanisms?

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