錯視の画像は数多くネット上に公開されていますが、見ただけではどうにも納得できないということも多いでしょう。

今回はトップにあげた錯視画像の作成者、米国テキサス大学エルパソ校(UTEP)のデビッド・ノヴィック教授が海外サイト「Science Alert」で語った解説とともに、なぜ錯視が起こるのかを見ていきましょう。

目次

  1. 全部同じ色のボール
  2. 不明な点も多い錯視の世界の魅力

全部同じ色のボール

【錯視】ボールは何色に見えますか? じつは全部同じ茶色です
(画像=ボールは何色に見えますか? 実は全て同じ色です。 / Credit:David Novick、『ナゾロジー』より引用)

ここに映るボールは、おそらく誰の目にも赤、緑、青の三色に見えるでしょう。

しかし、錯視画像のお約束どおり、これら12個のボールは実は全て同じ淡いベージュ色です。

なぜ、私たちの目はこれほどまで明らかに、ボールの色をベージュ以外の色で認識してしまうのでしょう?

ノヴィック教授によると、この錯覚は「ムンカー・ホワイト錯視(Munker-White illusion)」と呼ばれる現象に起因するといいます。

「本質的に、私たちの知覚は色に対する鋭敏さより、形に対する鋭敏さの方が優れています。そのため、私たちは形をより詳細に認識する一方、色はあまりはっきりと認識しないのです。

そのため、球体の輪郭はすべて同じように見えますが、色は隣接する空間ににじみ出したり、同化したりしてしまうのです」

ノヴィック氏はこのように説明しています。

その証拠に、この手の画像は縮小すると錯覚の効果が強調されますが、拡大すると効果が抑えられます。

ためしに上の画像の一部を拡大してみましょう。

【錯視】ボールは何色に見えますか? じつは全部同じ茶色です
(画像=画像の一部を拡大したもの。ボールが同色であることが理解できるだろうか? / Credit:David Novick、『ナゾロジー』より引用)

気を抜くと騙されそうになりますが、たしかにこのサイズで見た場合、ボールの色がそれぞれ同色の薄茶色ぽいものだということが理解できます。

試しにブラウザの表示を縮小したり、拡大してみればその効果はよりはっきりわかるでしょう。

これを見るとわかるように、具体的には、ボールの色は全景で横切るストライプの色に引っ張られているのです。

今回の画像では、それぞれのボールの前を、赤、青、緑のストライプのいずれかが横切っています。これが実際の色相認識を歪めてしまうのです。

この錯覚は背景の色ではなく、全景の横切るストライプの色に依存して発生しています。

そのため、ボールを横切るストライプを試しに削除してみると、この錯視効果は消えてしまいます。

【錯視】ボールは何色に見えますか? じつは全部同じ茶色です
(画像=ツイッター上でジョン・シーモア氏が人力でボールに重なる色を頑張って消下画像。確かにボールはすべて同じ色なのがわかる。 / Credit:Jon Seymour、『ナゾロジー』より引用)

頑張って全景のストライプを消した人がいますが、たしかにボールは同色でした。

こうした錯視の効果はいろいろと研究されていますが、脳内で起きるメカニズムについては、まだ完全に理解されていません。

不明な点も多い錯視の世界の魅力

すべての色をグレースケール(白から黒の明るさの変化)に変換したバージョンは、よく似た働きの錯覚起こします。

これは「ホワイト錯視」と呼ばれていて、この効果は2010年に単独で科学雑誌「Colour:Design」に掲載された論文があります。

【錯視】ボールは何色に見えますか? じつは全部同じ茶色です
(画像=今回の錯覚をグレースケールに置き換えたバージョンの「ホワイト錯視(White’s illusion)」の例 / Credit:Michael White,Colour: Design(2010)、『ナゾロジー』より引用)

この例のように、灰色の四角形の上に白いストライプを置くと、それは明るい灰色に見えます。

しかし、同じ四角形の上に黒のストライプを乗せると、今度は暗い灰色に見えるのです。

論文の著者でもある心理学者のマイケル・ホワイト(Michael White)氏は、1960年代にこの効果を報告して知られるようになりました。

そして1970年には、別の心理学者ハンス・ムンカー氏が、同じ効果を色付きのバージョンで示しました。

そのため、この錯覚は「ムンカー・ホワイト錯視」と呼ばれています。

科学者たちは、この錯覚が起きるとき、脳で何が起きているのかについて議論していますが、現在のところ競合する複数の理論が存在しています。

ある研究者は、光が最初に網膜にあたる視覚処理の初期に錯覚がはじまると考えていて、別の研究者は、脳がデータ処理するときに効果が後から定着していると考えています。

もしくは、この2つが組み合わさって起きている可能性もあります。脳がどのように処理することで錯覚が起きるのかは、まだ明確にはなっていません。

錯覚の正確な原因がなんであれ、錯視を利用して遊ぶのは楽しいとノヴィック氏は語っています。

ノヴィック氏は現在、どの色の組み合わせがこの効果を最大化させるのかという研究を行っています。

また、日本の立命館大学の心理学教授北岡 明佳氏との共同研究で、ムンカー・ホワイト錯視が3D形状と、平らな2D形状でどう変化するか比較を行っています。

【錯視】ボールは何色に見えますか? じつは全部同じ茶色です
(画像=2D形状の平らな円盤にムンカー・ホワイト錯視を適用した画像 / Credit:David Novick、『ナゾロジー』より引用)

この画像を見ると、先程の3Dのボールによる錯覚画像と比べて、色合いの変化は淡いものになったように感じます。

「平らな円盤(2D形状)よりも球体(3D形状)の方が、より知覚しやすいというか、鮮明に見えるのです。その理由はわかっていません。今のところ、誰にもわからないと思います」

ノヴィック氏は、この結果をそのように述べています。

ノヴィック氏は、もともと北岡氏の作品に触発されて錯視の研究をはじめたと語っています。

北岡氏ウェブサイトでは、トップ画像にネットではもはや有名となっている見つめていると渦が波打ったり回転して見える有名な錯覚画像を掲載しています。

見つめていると具合の悪くなる人もいるようなので、気になる人は北岡氏のウェブサイトに行って直接見てみましょう。

サイト上には、めまいを感じたらサイトを直ちに離れるよう、警告が書かれています。

そんな北岡氏の作品をきっかけに錯視に興味を持ったノヴィック氏、2017年の夏から、自身で錯視画像の作成をはじめ、ツイッターに投稿し始めました。

現在彼は週に2つのペースで新しい錯視画像を投稿しています。

「妻がやってきて、『あなたのことがイギリスの新聞に載ってますよ』と言ったんです。そのときはじめて私は自分の投稿が口コミで予想外に広まっていることを知り驚きました」

そんなノヴィック氏の作品は、彼のツイッター投稿から閲覧できます。

文・ライター:KAIN 編集者:やまがしゅんいち/提供元・ナゾロジー

参考文献
See Those Colorful Balls? Yeah, They’re All Actually Beige(sciencealert)

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