以前から精神的ストレスとアレルギー症状の悪化には関連があると考えらえていましたが、そのメカニズムは解明されていませんでした。

ところが最近、日本・大阪市立大学大学院医学研究科皮膚病態学の高市 美香氏ら研究チームが、ストレスとヒト鼻粘膜内のアレルギー発症の関連性を発見。

論文によると、ストレスによって放出されるホルモンが、アレルギーの原因となる免疫細胞を活性化させていたとのこと。

研究の詳細は、3月9日付けの科学誌『International Journal of Molecular Sciences』に掲載されました。

目次

  1. 鼻の免疫細胞がストレスホルモンに反応
  2. 精神的ストレスがアレルギー反応に関わる細胞を活性化させていた

鼻の免疫細胞がストレスホルモンに反応

高市氏は、「日々の診療の中で、精神的ストレスによって症状が悪化したというアレルギー患者に出会うことが多い」と述べており、今回の研究のきっかけになったとのこと。

研究の対象になったのは、ストレスホルモンである「コルチコトロピン放出ホルモン(CRH:corticotropin releasing hormone)」です。

CRHは人が精神的ストレスを感じたときに分泌されるため、「ストレス応答ホルモン」として知られています。

ストレスで鼻アレルギーが悪化するメカニズムの一端が明らかに
(画像=鼻の免疫細胞にはストレスホルモンに反応するスイッチがある / Credit:Depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

またこれまでの研究によって、ヒト鼻粘膜にある免疫細胞「肥満細胞」が、CRHの受容体をもっていると判明していました。

つまり鼻の免疫細胞にはストレスホルモンに反応するスイッチがあるのです。

アレルギーとは免疫細胞の過剰反応であるため、「ストレス→ストレスホルモンCRH→免疫細胞→アレルギー」の導線が見えてきました。

そこで研究チームは、CRHがヒト鼻粘膜内のアレルギー発症に関わっていると仮説を立て、実証するための研究を行いました。

精神的ストレスがアレルギー反応に関わる細胞を活性化させていた

まず研究では、鼻組織にCRHを添加。

これによりCRH受容体が反応し、肥満細胞の分裂・増加が確認されました。

さらに肥満細胞内にある化学物質が放出される反応「脱顆粒」も増加したとのこと。

ストレスで鼻アレルギーが悪化するメカニズムの一端が明らかに
(画像=ストレスでアレルギーが悪化するメカニズム / Credit:高市 美香氏ら, International Journal of Molecular Sciences(2021)、『ナゾロジー』より引用)

つまり今回の研究で、ストレスホルモンによって鼻粘膜の免疫細胞が活性化するメカニズムの一端が明らかになりました。

もともとアレルギーで苦しんでいた人がストレスを抱えると、アレルギー反応を引き起こしている免疫細胞が活性化するため、症状が悪化していたのです。

ちなみに、マウス実験でも同様の現象を確認できました。

そしてマウスにCRH受容体の阻害薬を与えたところ、免疫細胞の活性化を防ぐことに成功。

今後、人間に応用することで、ストレスに関連したアレルギー疾患の治療薬の開発につながる可能性があります。

年間通して花粉症のようなアレルギー性鼻炎はとてもつらい症状です。この成果から新しい治療薬が生まれるといいですね。

文・ライター:大倉康弘 編集者:KAIN/提供元・ナゾロジー

参考文献
Relieve Your Stress, Relieve Your Allergies – Increased Allergic Reactions May Be Tied to Stress Hormone

元論文
Stress and Nasal Allergy: Corticotropin-Releasing Hormone Stimulates Mast Cell Degranulation and Proliferation in Human Nasal Mucosa

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