寄生虫は大抵、宿主に有害な結果をもたらします。
ところが今回、ヨハネス・グーテンベルク大学マインツ(ドイツ)の研究により、サナダムシに寄生された西ヨーロッパ原産のアリ(Temnothorax nylanderi)は、老化が止まり、寿命が異常に長くなることが判明したのです。
宿主の寿命を延ばすことで、サナダムシにどんなメリットがあるのでしょうか。
研究は、5月19日付けで『Royal Society Open Science』に掲載されています。
寄生されたことで老化がストップ?
アリのコロニーは通常、1匹の女王と大勢の働きアリからなります。
女王には若いアリが世話係として付き添い、女王の産んだ卵の世話をします。
そして、世話係が成長することで、働きアリに昇格するのです。
こうして社会が循環していくのですが、研究チームはアリの巣を調べる中で、ちょっと変わったコロニーを発見しました。
そこには、働きアリなのにまったく働かないアリたちがいたのです。
観察を続けると、このアリたちは、「Anomotaenia brevis」という非常に小さなサナダムシに寄生されていることが分かりました。
サナダムシはアリの腸内に侵入し、化学物質を放出して宿主の生態を変化させます。
例えば、アリの一種「T. nylanderi」は、若いうちは黄色い体色をしていますが、年齢を重ねるにつれ皮膚が高質化し、茶色くなっていきます。
しかし、寄生されたアリは年をとっても黄色い、つまり若いままで、世話係のアリと見分けがつかないほどでした。
さらにチームは、寄生されたアリの生態を理解するべく、58のコロニーを3年間にわたって追跡。
その結果、3年後には、調査開始時にいた通常の働きアリは全員死んでいましたが、寄生されたアリは約53%がまだ生きていたのです。
今回は期間が限られていたため、どれくらいまで寿命が延びるのかは不明ですが、チームは「女王アリと同程度の20年近く生きられる可能性もある」と述べています。
ここまで宿主の寿命を延ばすことに、一体どんな得があるのでしょうか。
サナダムシの狙いは「鳥に巣を襲わせる」こと⁈
寿命の延長のほかに、寄生されたアリの特徴として、まったく働かなくなることが挙げられます。
彼らは仕事を一切しないどころか、ほとんど動かず、仲間が持ってきてくれるエサを食べるばかりでした。
逆に、健常な仲間たちは、寄生されたアリに親身になって、食事の世話や毛づくろいまでしていました。
場合によっては、女王よりも手厚く世話されることがあったとか。
しかしその反動か、健常な働きアリたちは過度のストレスに見舞われ、通常より若死にしていたのです。
それでも寄生されたアリは、のほほんとしているだけ。
こうして上手く機能しなくなったコロニーは、鳥に巣を襲われる確率が高くなっていました。
これこそ、サナダムシの狙いだったのです。
健常な働きアリたちが、鳥に食べられまいと懸命に逃げ惑う中、寄生されたアリはその場を動かず、食べられるがままでした。
ところが、サナダムシは鳥に食べられることで成虫になります。
サナダムシは鳥の腸内で成長、繁殖し、産卵した卵がウンチとともに体外に排出されます。
それを見つけたアリが食料として巣に持ち帰り、子どものエサとすることで、再び新たな寄生サイクルが始まるのです。
つまり、サナダムシは、自堕落なアリを作ることでコロニーを崩壊させ、長く生きるアリの中で鳥の襲来を待ち続けている、と結論できます。
一見、アリに寿命を与えているようでいて、実はコロニーの破滅と自らの繁殖を目論んでいたのです。
参考文献
Tapeworms extend the lifespan of worker ants in western Europe
Parasite grants ants “eternal youth” – but there’s a dark side
元論文
Extreme lifespan extension in tapeworm-infected ant workers
提供元・ナゾロジー
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