最も一般的な食中毒菌には、秘密の感染経路があったようです。
米国疾病予防管理センター(CDC)が発行する『Emerging Infectious Diseases』の4月号では、一般的な食中毒の原因菌として知られるカンピロバクターが、男性同士の性交渉で感染を広げていることが報告されました。
これまでカンピロバクターは、汚染された食品や家畜などを通して感染することが知られていましたが、性的接触が原因として示されたのは、今回の研究がはじめてとなります。
食中毒は性感染すると判明! 最も一般的な食中毒菌の意外な感染経路
カンピロバクターは上の図のように波状をした細菌であり、人間に感染すると、下痢・胃痙攣・発熱を伴う痛みを数日間発することが知られています。
また感染は主に、加熱が不十分な鶏肉や殺菌されていない生乳や水、または家畜との接触によって発生すると考えられてきました。
しかし近年の大規模なデータ解析により、カンピロバクターの症状を発した事例の多くが、食品や家畜といった既知の要因では説明しきれないことが判明します。
そこで今回、オクラホマ大学の研究者たちは、性的接触が感染経路になっている可能性を調べました。
調査にあたっては、デンマークの公衆衛生データを対象にしました。
デンマークではほとんどの感染症が国立研究所に報告さられている上に、男性同士の性的接触を医師に対してあまり隠さないため、分析対象として最適だったからです。
結果、衝撃の事実が判明します。
男性同士で性行為を行う人々がカンピロバクターに感染する確率は、そうでない人々に比べて14倍も高くなっていたのです。
この結果は、カンピロバクターが、性行為を主要な感染ルートの1つにしていることを示します。
今回の研究では原因となった性的行為の種類までは特定できませんでしたが、研究者たちは肛門と口との接触によるものだと推測しました。
推測の根拠は、赤痢菌の感染ルートです。
赤痢菌は1970年代から肛門への性的接触を介して広がることが知られているほか、今回の分析でも、男性同士で性行為を行う人々がそうでない人々にくらべて赤痢菌に74倍感染しやすいことが発見されました。
さらに感染に必要な細菌数も赤痢菌は10~1000個、カンピロバクターの場合は500~1万個と重なる部分があります。
また肛門を使用する性行為を行っている男と女・女性同士にもカンピロバクターと赤痢菌の感染率が高い傾向にあることも判明。
そのため研究者たちは、肛門を使用する性行為の最中に発生する微量の糞片を通して、カンピロバクターが感染していると考えました。
一方で、感染に必要な細菌数が百万個にも及ぶサルモネラ菌の場合、男性同士で性行為を行う人々とそうでない人々の間で発生率に違いはありませんでした。
この結果により、全ての食中毒の原因菌が、肛門を使用する性行為を感染ルートを持つわけではないことが分かります。
安全な性交渉は食中毒を防ぐ
今回の研究により、一般的な食中毒の原因菌であるカンピロバクター(加えて赤痢菌)が、肛門を使用する性行為を感染ルートとする可能性が示されました。
一方、多くの医師や研究者はカンピロバクターの感染者数は過小評価されており、現実には報告数の20倍以上の感染者が存在すると考えられます。
カンピロバクターの症状の多くは一週間以内に治ってしまうため、実際に病院に診察に来る割合も低くなるからです。
研究者たちは今後、性交渉と食中毒症状の関係を周知させる情報キャンペーンを、国が積極的に行っていくべきだと述べています。
参考文献
The Most Common Bacterial Cause of Food Poisoning Could Also Be an STI
元論文
Sexual Contact as Risk Factor for Campylobacter Infection, Denmark
提供元・ナゾロジー
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