グランドセイコーのシリーズ9は、日本の美意識をデザイン様式に取り入れた新ラインだ。もとよりグランドセイコーはスイスの時計とは異なる日本的な感性が息づいたデザインを推してきたが、それをより前面に強調した静謐な美しさがポイントになっている。
■Ref.SLGH005。SS(40mm径)。10気圧防水。自動巻き。104万5000円
デザインのコンセプトに“光と影”を掲げているだけあって、外装でまず目を引きつけるのは文字盤に施された型打模様だ。これはGSの製造拠点、岩手県雫石の周辺にある白樺林から着想を得たもの。白樺が幾重にも林立した様子を再現しており、これが複雑で独特の陰影を生み出している。アップライトインデックスは角の面取りだけでなく中溝まで掘られており、デザインを有機的にすると同時に視認性をアップさせている。
ケースについてはグランドセイコー自慢のザラツ研磨が生かされており、鏡面とヘアラインの使い分けでうまく立体感を作り出している。“光と影”というコンセプトは随所に生かされており、シルバートーン1色の時計でありながら、単調な雰囲気がなく高級感を感じさせるルックスだ。
ムーヴメントは昨年発表されたセイコーの最上位ライン9S系の新作、Cal.9SA5が採用されている。10振動にして80時間パワーリザーブという非常にタフな設計のムーヴメントだが、このパワフルさを実現するために採用されたのがデュアルインパルス脱進機という新機構である。これはゼンマイからのエネルギーを余すところなくテンプに伝えるため、通常のアンクルによる間接衝撃だけでなく、テンワにも爪石を搭載してこれがガンギ車に直接衝撃を加えるという、間接+直接的なパワーの両方を活用するセイコー独自の新機構だ。従来の腕時計に一般的なスイスレバー式と、いにしえのマリンクロノメーターに採用されていたデテント式の双方の利点を併せ持ったような非常に効率的な脱進機構となっている。 さらに地板と自動巻き機構の輪列を並列に配置したことで、ムーヴメントの薄型化にも成功。80時間というパワーリザーブは、週末はずしておいて月曜に再度つけたときも余裕で動いているわけで、ビジネス時計としては望ましいスペックなのだが、このパワーリザーブを確保するためにツインバレルを採用。二つのゼンマイを並列に配置しているので、ムーヴメントは薄型ケースにもしっかり収まる。精度調整は9S系お得意の緩急針ではなく、フリースプラング方式が新たに採用されている。
9SA5はセイコーらしい新機構をふんだんに盛り込んだ意欲的なムーヴメントだが、精度や機能面が優秀なだけでなく、その見た目もかなり美しい。ローターは大胆に肉抜きされ、地板に施された優美な波目模様がよく映えている。全体のパーツ配列にも余裕がある。この優美な機械がしっかりとシースルーバックから視認できる点もうれしい。
時計自体の薄さからすると、腕につけた感じは意外にずっしりとしており、質実さは装着感からも伝わってくる。しかし、ブレスレットのフィット感が良いため、着けていて疲れるということはないだろう。 9SA5搭載モデルは昨年発表の限定モデルが約500万という値付けで大きな話題となった。GSも以前より全体にプライスラインが上がっているが、高級化路線を模索しているのだろう。今回のシリーズ9も100万円クラスの高級モデルだが、新ムーヴメント9SA5のクオリティを考えると、まずまず中身に見合った妥当な価格帯だと思える。メイドインジャパンの奥深さを知らしめるためにも、広く注目を集めてほしい時計だ。
【問い合わせ先】 セイコーウオッチお客様相談室 TEL.0120-061-012
構成◎堀内大輔(編集部)/文◎巽 英俊/写真◎編集部
提供元・Watch LIFE NEWS
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