コンクリートは建材として広く利用されていますが、他の用途にも使えるかもしれません。
スウェーデン・チャルマース工科大学建築土木工学科に所属するエマ・チャン氏ら研究チームは、充電できるコンクリートバッテリーを開発しました。
この新しいコンクリートを使用するなら、建物全体にエネルギーを蓄えられるのです。
研究の詳細は、3月9日付けの学術誌『the journal Buildings』に掲載されました。
目次 鉄筋コンクリートの素材を変えて電池にする コンクリートバッテリーの性能と将来性
鉄筋コンクリートの素材を変えて電池にする
コンクリートを用いて建造物を建てる場合、一般的にはコンクリート(セメント+骨材)に鉄筋をプラスします。
この目的は、コンクリートの「ひっぱりに弱く圧縮に強い」性質と、鉄筋の「ひっぱりに強く圧縮に弱い」性質を組み合わせることにあります。
鉄筋コンクリートにすることで、互いの弱点を補い合い、強い構造物が作られるのです。
新しいコンクリートは、従来の鉄筋コンクリートと同じ構造ですが素材を変化させており、それぞれが電池に必要な正極、負極の役割を担うようになっています。
まず、鉄筋の代わりに「対になる炭素繊維の格子」を使用。
片方の炭素繊維格子は鉄でコーティングされており、負極として機能します。
もう片方の炭素繊維格子はニッケルでコーティングされており、正極として機能します。
次に、通常のコンクリートの代わりに導電性セメントを用いたコンクリートを使用。これでコーティングされた格子を包みます。
最後に正極と負極の2つの層で電解質を挟みます。これにより構造物全体が電池として働き、充電と放電が可能になるのです。
コンクリートバッテリーの性能と将来性
新しいコンクリートバッテリーのエネルギー密度は、1m²あたり7Whです。
この数値は以前に開発されたコンクリートベースのバッテリーの10倍以上の数値となります。
もちろん、市販のバッテリーに比べるとはるかに効率が劣りますが、それでも建材として建物全体に充電できるなら、それ自体が大きなメリットになるでしょう。
ちなみに、研究チームはこのコンクリートバッテリーが大きな可能性を秘めていると述べています。
例えばソーラーパネルやセンサーと組み合わせて、高速道路や橋の亀裂・劣化を検出する自律型監視システムを作れるかもしれません。
とはいえ、コンクリートバッテリー自体はまだ商業化できません。
コンクリート建造物は通常50~100年使用することを想定しています。コンクリートバッテリーを用いるなら、同期間、電池としても機能させなければいけないのです。
今後はバッテリー耐用年数の延長、リサイクル技術の開発が課題となるでしょう。
コンクリートに電気を貯めるというアイデアは画期的なため、研究チームの今後の開発と研究に期待したいですね。
参考文献 Novel concrete battery could let buildings store their own energy 元論文 Rechargeable Concrete Battery
提供元・ナゾロジー
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