Wi-Fi電波は私たちの周りを絶えず飛び交っており、いつでも通信に利用できます。
逆に言うと、通信していないときのWi-Fi電波はすべて無駄であり、エネルギーが捨てられ続けていることになります。
そこで東北大学電気通信研究所に所属する大野 英男教授ら研究チームは、シンガポール大学と共同で、Wi-Fi電波を使って発電できる素子を開発しました。
研究の詳細は、5月18日付けの科学誌『Nature Communications』に掲載されています。
磁気トンネル接合によってWi-Fi電波から発電する
近年、スピントロニクス技術の研究が盛んに行われています
スピントロニクスとは、電子がもつ電気的性質(電荷)と磁気的性質(スピン)の両方を利用する分野であり、従来の電子工学では実現できなかった機能を生み出すことが可能。
そしてスピントロニクス技術の代表例として、「磁気トンネル接合」と呼ばれる構造技術が挙げられます。
磁気トンネル接合素子は、2つの磁性層が絶縁層をサンドイッチした構造をしており、メモリーデバイスとして機能します。
また、別の機能ももたせることができます。
高周波の電気信号や電磁波を送信・受信できるという特徴があるのです。これを利用すれば電力を生み出せます。
しかし、磁気トンネル接合素子単体では実用化レベルの出力を生成できません。
そこで研究チームは、磁気トンネル接合素子をこの用途に特化させるための調整を施しました。
さらに8つの素子を直列に接続することで、微弱な入力から出力が得られるようにしました。
Wi-Fi電波を吸収してLEDライトを発光させることに成功
新しい技術開発の結果、Wi-Fiで主に用いられている2.4GHz帯の電波から発電できるようになりました。
実験では、Wi-Fi電波から3~4秒充電し、その後、1.6VのLEDを1分間にわたって発光させ続けることに成功。
発電の規模は小さいですが、これまで捨てられ続けてきたWi-Fi電波を有効活用できる画期的な手段だと言えます。
今後研究チームは、磁気トンネル接合素子の数を増やすことで、発電量の向上を目指しています。
またWi-Fi電波による「電子機器のワイヤレス充電」の実現に向けて研究していく予定です。
ちなみに、今回開発されたWi-Fi発電用の磁気トンネル接合素子は、比較的容易に大量生産できると言われています。
なぜなら、メモリーデバイスとしての磁気トンネル接合素子量産技術はすでに確立されており、今回用いた素子も同等の材料系で構成されているからです。
つまり、Wi-Fi発電デバイスとしての開発が進展するなら、すぐに大量生産できる環境が整っているのです。
「Wi-Fi環境では電子機器が自動的に充電される時代」もそう遠くはないかもしれませんね。
参考文献
Wireless and Battery-free Spintronic Energy Harvester
元論文
Electrically connected spin-torque oscillators array for 2.4 GHz WiFi band transmission and energy harvesting
提供元・ナゾロジー
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