図表は、2021年の地価公示の対前年変動率である。三大都市圏および地方圏の住宅地、商業地、工業地に分け、それぞれの変動率平均と分布幅を取った。棒グラフの中の白丸の数字が、20年1月から21年1月までの平均変動率、棒グラフの上下の広がりが、対象各地点の変動率の下限から上限の幅を示している。平均値は棒グラフの中央近くに来るのが自然であるが、変動率が上下のどちらかに偏っている場合は、棒の長い方に極端な上昇または下落ポイントが存在していると解釈できる。

まず、各平均値を見てみると、マイナス1.3%からプラス1%の範囲で収まっている。1年前に公表された各数値はすべてプラスだったので、コロナ禍をきっかけに上昇トレンドはいったん終わったとみることができる。

棒グラフを個別に見ていこう。三大都市圏商業地の「C1」のゾーンには大阪道頓堀(28.0%減)が入っている。インバウンド減少の影響が直撃し、極端な下落を示した。「C2」には、名古屋錦(15.2%減)、京都東山(13.9%減)、東京浅草(12.2%減)、東京新宿歌舞伎町(10.3%減)、横浜中華街(10.3%減)、大阪梅田(8.4%減)が入る。このような商業地の地価が回復に向かうには、コロナ収束が必須だが、度重なる感染の拡大でなかなか出口が見えない。

他方、上昇を示した地点もある。三大都市圏工業地の「In1」には、横浜市(11.1%増)、千葉県松戸市(10.8%増)、地方圏工業地の「In2」には、沖縄県豊見城市(29.1%増)、福岡県筑紫野市(12.8%増)、佐賀県鳥栖市(11.1%増)が含まれる。工業地の中で物流施設に適した土地への需要は際立って高く、平均から乖離した上昇率となった。コロナ禍でネット通販が好調なことからも、この傾向はしばらく続くだろう。

地方圏住宅地「R」のゾーンには、北海道倶知安町(ニセコ、25.0%増)、長野県白馬村(12.5%増)、軽井沢(10.0%増)が入る。三大都市圏の住宅地の分布幅が狭い一方、リゾート地の別荘等に投資や移住目的の購入資金が流入していることが見て取れる。地方圏商業地の「C3」にも北海道倶知安町(ニセコ、21.0%増)が入っているのも、同様の理由である。

このように、地価には多様な動きが出ている。リゾート地などで日本の不動産を割安と見て購入する海外の投資資金は、やがて都市圏の高級住宅や商業ビル等にも流れ込んでくる可能性がある。この流れは、今後商業地の地価がコロナ収束に伴って回復する際に、それを加速する要因にもなり得ると考える。

コロナ禍でも需要旺盛な物流施設とリゾート地
(画像=『きんざいOnline』より引用)

文・三菱UFJ信託銀行 不動産コンサルティング部 フェロー / 大溝 日出夫
提供元・きんざいOnline

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