近年、倫理的問題や人口増加に対応するため、さまざまな機関で人工肉の研究が進められています。
ただし本物の肉の香りや食感、味を生み出すのは容易ではありません。
そんな中、アメリカ・ボストン大学工学部に所属するグレン・ゴーデット氏ら研究チームは、ほうれん草の葉の骨格構造を利用して人工牛肉を培養することに成功しました。
この結果により、今後本物に近い分厚い人工牛肉ステーキが作られるかもしれません。
研究の詳細は、科学誌『Food Bioscience』に掲載されました。
培養肉には足場が必要

人工肉を作るには、動物から筋肉細胞を入手し、実験室で増殖させなければいけません。
「細胞を培養して増殖させる」こと自体は、現代の技術では比較的簡単に行われています。
ところが、ただ細胞を増殖させるだけでは、私たちの目的に沿わないことがほとんどです。
例えば、動物性タンパク質であってもその形状や食感はさまざまです。卵白のようにドロドロしたものもあれば、牛肉のように歯ごたえがあるものもあります。魚の刺身もまた違った食感でしょう。
さらに同じ牛肉でも部位によっては食感や味が異なっています。
私たちが望んでいる「人工肉」とは、歯ごたえのある立体的な肉の塊ではないでしょうか?ドロドロのミンチではなくステーキが食べたいのです。

そこで大切になってくるのが、「スキャフォールド(英訳:Scafold)」と呼ばれる細胞足場です。
スキャフォールドは細胞の接着・増殖を促しつつ、三次元構造を保持するために役立ちます。
建造物が足場にそって伸びていくように、スキャフォールドにそって人工肉が立体的に作られていくのです。
ほうれん草の葉から「食用可能な足場」をつくる
実験的に人工肉を培養するだけであれば、プラスチックのスキャフォールドが使用できます。
しかし、これでは食肉にはなりません。
そこで科学者たちは、これまでに動物から採取したゼラチンスキャフォールドや、大豆タンパク質で作られたスキャフォールドを利用してきました。
そして最近、ゴーデット氏ら研究チームは、別の植物ベーススキャフォールドを提案しました。
ほうれん草の葉からスキャフォールドを作ったのです。

この新しい取り組みは、以前に行われた「ほうれん草のスキャフォールドによる人間の心臓細胞培養」の成功例に基づいているとのこと。
心臓細胞の培養が成功したのであれば、食用の牛肉ステーキにも適用できると考えたのでしょう。
実験では、ほうれん草の葉から植物細胞が取り除かれ、骨格構造(葉脈)だけを残します。
これをスキャフォールドとし、牛の細胞を定着させ培養することにしました。
その結果、ほうれん草スキャフォールドで牛細胞は14日間生存し、筋肉へと分化しました。
今回の成果は、人工肉の生産量の増加や環境コスト削減に役立つと考えられます。
研究チームは、今後、より分厚いステーキを作るために、ほうれん草スキャフォールドの上でより多くの細胞を成長させる予定です。
将来、ほうれん草を利用した分厚い人口牛肉ステーキが食べられるかもしれませんね。
参考文献
Spinach leaf skeleton serves as eco-friendly scaffold for lab-grown meat
元論文
Decellularized spinach: An edible scaffold for laboratory-grown meat
提供元・ナゾロジー
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