複雑なメカニズムで知られるクロノグラフにはいくつか種類がある。その上位機構として代表的なのが、“フライバック”と“スプリットセコンド”だ。今回はこの違いを解説したい。
スタート→ストップ→リセット→リスタートがクロノグラフの基本的な操作方法だが、フライバッククロノグラフはこの行程における操作を簡略化したものである。計測を一旦止めて再度計測を始めるにはプッシュボタンを3回押さなければならないが、フライバックでは4時位置のリセットボタンを押すと、計測がリセットされると同時に次の計測がスタートする。つまりストップからリスタートまで3回押すべきボタン操作を1回だけで行うことができ、中間タイムの読み取りなどがやりやすくなるのだ。
軍用クロノグラフの傑作として知られるチュチマのフリーガークロノグラフ。ドイツ空軍からの依頼で1940年に開発され、空軍所属のパイロットが使用した。当時としては珍しいフライバック付きだ
このフライバッククロノグラフが生まれた背景には、時計が軍需品として発展してきた歴史がある。航空機の登場とともに、正確なクロノグラフは自身の飛行位置や目的地への到達時間を測るための機器としてクローズアップされた。しかし操縦中に操縦桿から手を離して何度もプッシュボタンを押すのは難しい。それゆえに操作が簡略なフライバッククロノグラフは大きな意味があったのだ。
フラクバッククロノグラフモデル
ポルシェ・デザイン
1919 クロノタイマー・フライバック
ポルシェ911の産みの親、フェルディナント・アレクサンダー・ポルシェが発表した同社初のクロノグラフウオッチ“クロノグラフ I”のDNAを受け継いだコレクション。大きく空洞になった独特のラグを備えたケースが特徴で、まるで高い空力特性を備えたポルシェ911を彷彿とさせる非常に洗練されたデザインが魅力だ。
■Ref.6023.6.04.006.07.2。Ti(42mm径、ケース厚14.90mm)。10気圧防水。自動巻き(Cal.WERK 01.200、毎時2万8800振動、約48時間パワーリザーブ)。96万8000円/問い合わせ:ノーブルスタイリング(TEL.03-6277-1600)
他方、スプリットセコンドクロノグラフはさらに機能的に進化したものである。最初から2本のクロノグラフ針が用意されており、複数のタイム計測が可能になっているのだ。しかも一旦停止させた針を再始動させると、動いている針の位置まで瞬時に移動して、再びタイム計測させることができるという便利な設計になっている。レースのラップタイムを計測するなど、実用性は非常に高い。いずれも複数のタイム計測ができる機能性の高さに加え、機構の複雑さから人気があるが、現在手がけているブランドはごく一部に限られる。というのもその製造には相当な技術力が要求されるからだ。
スプリットセコンドモデル
A.ランゲ&ゾーネ
トリプルスプリット
通常のスプリット機構は、秒クロノグラフのみ2本の針を持ち、ラップタイム計測などが行えるが、本作ではさらに30分積算計、12時間積算計にもそれぞれ2本の針を持ち、長時間でもラップタイム計測を可能とした。この機能を使えば、例えばF1レースや、ツール・ド・フランス、あるいはマラソンで競い合う2人のタイムを比較することができるほか、開始が同時ではない2つのイベントや長時間におよぶイベントに要した時間を計って記録できる。
■Ref.424.037F。K18ピンクゴールドケース(43.2mm径)。日常生活防水。手巻き(Cal.L132.1)。世界限定100本。予価2024万円/問い合わせ:A.ランゲ&ゾーネ(TEL.0120-23-1845)
フライバックはクロノグラフの動作を伝えるキャリングアームとリセットハンマーを連動させる必要があるが、小さなムーヴメントにそのためのパーツを収めるのがなかなか難しい。またスプリットセコンドはムーヴメントにかかる負荷が非常に大きく、歯車の欠けなどが起こらないように、高い耐久性が求められる。
いずれの機構も高い手腕をもつブランドでなければ、その製造は不可能なのだ。
文・堀内大輔/提供元・Watch LIFE NEWS
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